でも、適当に言っているわけじゃないだろう。たぶん。この人は人を急かしたり、無理やり話をさせようとしない。ただ、私の、相手の行動を待ってくれる人。いつまでも待てる人。
「先輩は、自然体ですね」
「どうした、急に」
ゆっくり歩きだすと、先輩も隣をついてきた。まるで私を送り届けるみたいに。その行動の流れすら自然だ。
「私は考えてばかりなので、ちょっと羨ましいな、と」
「江里乃ちゃんは頭でっかちになって行動に移せないタイプだもんな」
そのとおりだけれど、先輩に言われるとなんかこう、素直に認めたくなくなる。さっき羨ましいといった言葉も取り消したい。
さほど親しくもない先輩にそう思われていることが悔しい。私のなにを知っているのかと訊きたくなるけれど、図星なので言えない。
私は、まわりからは決断力があると言われることのほうが多い。けれど、先輩の言うとおり、考えた上で一番効率のいい方法を選んでいるだけ。先輩のように、考えすぎて思いのままに行動することはできない。
リスクばかりを考えてしまうから。
無言でいると、先輩は「あ、怒ってるだろ。わかりやす」と言って笑い出した。
……むかつく。
「でも、別に羨ましがることはなにもないと思うけど」
「先輩に言われると嫌みに聞こえるんですけど」
「ひねくれすぎてるな、江里乃ちゃん」
「ひねくれてるんじゃなくて、先輩が信用できないだけです」
先輩は、また「なるほど」と言った。嫌みだったのに、先輩はまったく気にしない。こういうところに、敵わないなと敗北感を抱く。
「俺が自然体なのは、俺がやりたいことをしてるからだろーな」
「まあ、それもそうかもしれないですね」
先輩が我慢している姿はなかなか想像できない。
苦笑すると、先輩は満足そうに「だろ」と言った。実際先輩の言動はけっして褒められるようなものではないのだけれど。その髪の毛は卒業を控えた高校三年生としてはどうかと思うし。先生も困ってたし。
「だから江里乃ちゃんも、いろいろ考えて答えが出ないときは、わがままになってみれば? そういうときは正解がないってことで」
私の悩みを見透かしたような答えに、ぎくっとする。
「考えた上での好きな行動なら、それが正解でいいじゃん」
「……先輩は、考えた上でその髪型に?」
「もちろん」
動揺を隠すように言った言葉だったけれど、先輩に自慢げに胸を張られて、つい噴き出してしまった。
気がつくと教室の前に着いていて、じゃあ、と軽く頭を下げる。本当に教室まで送ってくれたようだ。たった十数メートルの距離だというのに。
「考えすぎる江里乃ちゃんにこれをやるよ」
先輩がポケットから棒つきのキャンディーを取り出し私に差し出す。
「変わらないですね、先輩」
ぽつりとつぶやくと、先輩はにっこりと微笑んだ。
初めて会ったときも、お菓子を私にくれた。あのときは、たしかラムネだった。私の手をつかんで引き寄せ、手のひらに数粒のラムネをぱらぱらとのせたのだ。
何度も食べたことのあるラムネだった。
なのに、今までで一番おいしく感じたのを覚えている。
「先輩は、自然体ですね」
「どうした、急に」
ゆっくり歩きだすと、先輩も隣をついてきた。まるで私を送り届けるみたいに。その行動の流れすら自然だ。
「私は考えてばかりなので、ちょっと羨ましいな、と」
「江里乃ちゃんは頭でっかちになって行動に移せないタイプだもんな」
そのとおりだけれど、先輩に言われるとなんかこう、素直に認めたくなくなる。さっき羨ましいといった言葉も取り消したい。
さほど親しくもない先輩にそう思われていることが悔しい。私のなにを知っているのかと訊きたくなるけれど、図星なので言えない。
私は、まわりからは決断力があると言われることのほうが多い。けれど、先輩の言うとおり、考えた上で一番効率のいい方法を選んでいるだけ。先輩のように、考えすぎて思いのままに行動することはできない。
リスクばかりを考えてしまうから。
無言でいると、先輩は「あ、怒ってるだろ。わかりやす」と言って笑い出した。
……むかつく。
「でも、別に羨ましがることはなにもないと思うけど」
「先輩に言われると嫌みに聞こえるんですけど」
「ひねくれすぎてるな、江里乃ちゃん」
「ひねくれてるんじゃなくて、先輩が信用できないだけです」
先輩は、また「なるほど」と言った。嫌みだったのに、先輩はまったく気にしない。こういうところに、敵わないなと敗北感を抱く。
「俺が自然体なのは、俺がやりたいことをしてるからだろーな」
「まあ、それもそうかもしれないですね」
先輩が我慢している姿はなかなか想像できない。
苦笑すると、先輩は満足そうに「だろ」と言った。実際先輩の言動はけっして褒められるようなものではないのだけれど。その髪の毛は卒業を控えた高校三年生としてはどうかと思うし。先生も困ってたし。
「だから江里乃ちゃんも、いろいろ考えて答えが出ないときは、わがままになってみれば? そういうときは正解がないってことで」
私の悩みを見透かしたような答えに、ぎくっとする。
「考えた上での好きな行動なら、それが正解でいいじゃん」
「……先輩は、考えた上でその髪型に?」
「もちろん」
動揺を隠すように言った言葉だったけれど、先輩に自慢げに胸を張られて、つい噴き出してしまった。
気がつくと教室の前に着いていて、じゃあ、と軽く頭を下げる。本当に教室まで送ってくれたようだ。たった十数メートルの距離だというのに。
「考えすぎる江里乃ちゃんにこれをやるよ」
先輩がポケットから棒つきのキャンディーを取り出し私に差し出す。
「変わらないですね、先輩」
ぽつりとつぶやくと、先輩はにっこりと微笑んだ。
初めて会ったときも、お菓子を私にくれた。あのときは、たしかラムネだった。私の手をつかんで引き寄せ、手のひらに数粒のラムネをぱらぱらとのせたのだ。
何度も食べたことのあるラムネだった。
なのに、今までで一番おいしく感じたのを覚えている。