お人好しというかなんというか。たまにはきっぱり断ったっていいのに。そのほうが優子のためにだってなる。でも、希美はけっしてイヤイヤノートを見せているわけではないことを、私は知っている。
でもなあ。
「希美は甘いんじゃなくてやさしいんだよー。江里乃は厳しすぎる!」
すぐに戻ってきた優子がなぜか自慢げに言った。
「でも、江里乃は優子のためを思ってるんだよ」
「それはわかってるけどお」
希美の言葉に優子がたちまちしゅんとしてしまう。
こういうとき、希美の言葉は魔法みたいだな、といつも思う。
私には希美のような魔法の言葉は使えない。
「希美は、すごいね」
「え? なに急に!」
優子に丁寧に教えてはじめる希美を見つめながらつぶやくと、希美は恥ずかしそうに頬を赤く染めて「江里乃のほうがすごいでしょ」と言った。
「生徒会副会長で、成績優秀スポーツ万能で、おまけに美人の江里乃が言うと嫌みだよー、それ」
「そんなふうに言ってくれてありがと。でも褒めてもノートは見せないよ、優子」
ふふんとわざとらしく胸を張ると、優子が「ざんねーん」と肩をすくめた。
「現在真っ最中で彼氏と仲良くしているふたりに嫉妬してるしね」
「そんなこと言いながら、江里乃のことだから、そのうちまた誰かに告白されて突然彼氏ができたーとか言い出すくせにー」
まあ、その可能性はないとも言い切れない。
自分で言うのもなんだけれど、たしかに私は校内でそれなりに目立つ存在だと思う。
両親が教師だからなのか、それとも三人姉弟の長女だからなのか、気がついたときにはクラスメイトから頼られる存在だった。小学校でははほぼ毎年学級委員に選ばれていたし、中学でも生徒会会長を努めていた。中学時代にやっていたバレー部では一時期キャプテンもしていた。そして、高校でも去年クラスメイトの推薦で生徒会の選挙に出て当選し、二年の今は生徒会副会長だ。
常になにかしらの肩書きがあったからか、それに恥じないように常にみんなの手本になるように、勉強も運動も頑張った。なにより、清く正しい振る舞いを心がけていた。ウソはつかない。陰口は叩かない。間違っていることはしないし、間違っていると思ったら指摘し、いやなことはいやだとはっきり口にする。
人として当たり前のことばかりだと思う。
そんな私に、周りはいつも「すごいね」「サバサバしていてかっこいいね」「しっかりしているね」と言う。
けれど、それはいつも最初だけだ。もしくは、教師やさほど親しくない人だけ。
時間が経つと、「すごい」が「怖い」になり、「サバサバしている」が「キツい」になり、「しっかりしている」が「厳しい」に変わるのだ。
それは、女友だちからも、告白されて付き合った彼氏からも。
でもなあ。
「希美は甘いんじゃなくてやさしいんだよー。江里乃は厳しすぎる!」
すぐに戻ってきた優子がなぜか自慢げに言った。
「でも、江里乃は優子のためを思ってるんだよ」
「それはわかってるけどお」
希美の言葉に優子がたちまちしゅんとしてしまう。
こういうとき、希美の言葉は魔法みたいだな、といつも思う。
私には希美のような魔法の言葉は使えない。
「希美は、すごいね」
「え? なに急に!」
優子に丁寧に教えてはじめる希美を見つめながらつぶやくと、希美は恥ずかしそうに頬を赤く染めて「江里乃のほうがすごいでしょ」と言った。
「生徒会副会長で、成績優秀スポーツ万能で、おまけに美人の江里乃が言うと嫌みだよー、それ」
「そんなふうに言ってくれてありがと。でも褒めてもノートは見せないよ、優子」
ふふんとわざとらしく胸を張ると、優子が「ざんねーん」と肩をすくめた。
「現在真っ最中で彼氏と仲良くしているふたりに嫉妬してるしね」
「そんなこと言いながら、江里乃のことだから、そのうちまた誰かに告白されて突然彼氏ができたーとか言い出すくせにー」
まあ、その可能性はないとも言い切れない。
自分で言うのもなんだけれど、たしかに私は校内でそれなりに目立つ存在だと思う。
両親が教師だからなのか、それとも三人姉弟の長女だからなのか、気がついたときにはクラスメイトから頼られる存在だった。小学校でははほぼ毎年学級委員に選ばれていたし、中学でも生徒会会長を努めていた。中学時代にやっていたバレー部では一時期キャプテンもしていた。そして、高校でも去年クラスメイトの推薦で生徒会の選挙に出て当選し、二年の今は生徒会副会長だ。
常になにかしらの肩書きがあったからか、それに恥じないように常にみんなの手本になるように、勉強も運動も頑張った。なにより、清く正しい振る舞いを心がけていた。ウソはつかない。陰口は叩かない。間違っていることはしないし、間違っていると思ったら指摘し、いやなことはいやだとはっきり口にする。
人として当たり前のことばかりだと思う。
そんな私に、周りはいつも「すごいね」「サバサバしていてかっこいいね」「しっかりしているね」と言う。
けれど、それはいつも最初だけだ。もしくは、教師やさほど親しくない人だけ。
時間が経つと、「すごい」が「怖い」になり、「サバサバしている」が「キツい」になり、「しっかりしている」が「厳しい」に変わるのだ。
それは、女友だちからも、告白されて付き合った彼氏からも。