肩には、どこでつけてきたのか葉っぱがくっついていた。きれいな緑色の、秋には似合わないほどみずみずしい葉。

『で、どうした?』

 呆れて突っ立っていると、先輩がそう言った。



「で、どうした?」
「――え?」

 記憶と同じセリフが聞こえてきて、素っ頓狂な声を上げてしまった。

「なんか悩んでそうな顔してたから」
「……そんな顔、してました?」
「いつもはもっとこう、堅物そうな顔してる」

 堅物って!

 思わずムッとしてしまうと、先輩は「そういう顔」と言って片頬を持ち上げる。私の反応を楽しんでいるのがわかり、気に入らない。そもそも〝いつもは〟って、毎日顔を合わすような関係でもないし、先輩が余計なことばかりするからこんな顔になるだけだというのに。

 ただ、悩んでいるのはそのとおりなので、イライラを鎮めて「そうですかね」と曖昧な返事をする。先輩のせいですけどね、と心の中で付け足して。

 初めて会ったときは、なんて返事をしたっけ。おそらく「なんでもないです」とはっきり否定しただろう。初対面の人に気持ちを打ち明けることができるほど、私は素直じゃない。

 けれど今は、なんでごまかせなかったのだろう。

 少なからず、私が先輩に興味を抱いてしまっているからだろうか。

「あれー、ニノ先輩」
「なんでこんな場所にいるんすか」
「校内でナンパしてんの?」

 向かい合って廊下にいると、二ノ宮先輩を見つけた人たちが話しかけてくる。そのひとりひとりに「おっす」「邪魔すんなよー」「ちげーよ」と返事する。二年生の教室がある階だというのにこれほど知り合いが多いなんて、顔が相当広い。

「あれ、ニノじゃん」

 背後から米田くんの声が聞こえて振り返る。二ノ宮先輩は米田くんとも友だちだったらしい。

「松本さんに相談してんの? あのノートのこと」

 あの、ノート。その単語にいやな予感を抱く。

「歌詞のメモなくなったんだって。松本さん知ってる?」
「知らないです」

 考えるよりも先に口が動く。あ、と思ったときには手遅れだった。手のひらに汗が浮かぶ。顔に動揺が出ていないことを祈るばかりだ。

 完全に拾ったノートのことだよね。

 とっさにウソをついてしまったことで、交換日記に本当のことは言えなくなってしまった。まさか自分がこんなウソをついてしまうなんて。

「いや、あれはもう見つかったから。親切な人が届けてくれた」
「へえ、よかったじゃん。」

 ふたりの会話に、頬がヒクヒクと引きつる。

 ああ、どうしよう。やばい。もういまさら「知ってます」とは言えない。とりあえず冷静を保たなくては。そしてボロが出ないうちに先輩から離れなくちゃ。

「ごめんごめん。で、なにがあった?」