はいはい、ごちそうさまーと言ってみんなで笑うと、希美の顔が真っ赤になる。反応が素直だからついつい希美をからかってしまう。
「ありがとね、希美。明日楽しみにしてる」
狼狽えている希美に伝えると、ふにゃりとかわいらしい微笑みが返ってきた。その表情に思わずドキッとする。
瀬戸山も、きっとこういう希美の反応に惚れたんだろうなあ。
お弁当を無事食べ終え、
「あ、ちょっと私、お手洗い行ってくる」
と腰を上げて言うと「はいはーい」と優子の明るい声が返ってきた。
ドアを開けて廊下に出ると、どこかの窓が開けっ放しになっているのか、ひゅうっと冷たい風が吹き込んでくる。トイレに行くだけだからとブレザーを教室に置いてきてしまったのは失敗だった。さっさと済ませようと、体を縮こませながら足早にトイレに向かう。
廊下以上に冷え込んでいるトイレに入り、刺すような痛みがあるほど冷たい水で手を洗う。これだから冬はいやだ。ううーっと歯を食いしばり、再び廊下に出て教室を目指す。
寒さから気をそらすように、考えに集中する。
ああ、先輩への返事、どうしようかな。早めに返事をしないと。断るなら早いほうがいい。また前みたいに時間をかけてしまったら、先輩をやきもきさせてしまうかもしれない。……でも、なあ。
うーんと腕を組み、まぶたを閉じて熟考していると、窓から突風が襲ってきた。
「……わ、っぷ、なに?」
短い髪の毛が乱れる。薄目を開けると、目の前にキラキラ眩しいなにかが飛び込んできた。明るい毛が大きな猫か狐のように見えて、目を見開く。と、それが動物ではなく人であることがわかった。相手も私を見て驚いた顔をしている。
知っている人なのに風のように颯爽と突然目の前に現れたから、おまけに明るい髪色が光を吸収して輝いて見えたから、それが誰なのか理解するのが遅れた。
「江里乃ちゃんかー。はは、ごめんごめん」
明るい声に、はっとする。
それが、見とれていたからだと気づいたのはその直後だ。
「二ノ宮、先輩」
「突然目の前に江里乃ちゃんが現れたからびっくりした」
「っ、いや、びっくりしたのはこっちのセリフですよ。突然現れたのは先輩のほうですから……」
遅れて心臓がばくばくと動きだす。知らず知らずのうちに、私は息を止めていたらしい。声が心拍音に合わせて震えてしまう。
っていうか。
「どこから来たんですか!」
「まあまあまあまあ」
どう考えても窓から来たよね? え? ここ三階なんだけど?
先輩と窓を交互に見ながら口をパクパクさせていると「まあまあまあ」と同じセリフを口にしながら肩をぽんっと叩かれた。まるで落ち着いて、となだめられているように。
前にも、こんなことがあったっけ。