広げたもののほとんど手をつけていなかったお弁当を、パクパクと口に運びながら笑う。気がつけばつい、交換日記のことを考えてしまい、意識がどこかに飛んでいってしまう。そのせいで、今日は授業中も何度か上の空になっていた。

「ぼんやりしてるなんて、江里乃にしては珍しー」
「三学期はイベント盛りだくさんだもんねえ」
「希美のおすすめの曲でも聴いて元気だしなよ」

 優子をはじめ、まわりの友だちも意外そうにしながら私のことを話す。おすすめの曲を、と言われた希美はあわあわしながら「もしよければおすすめするけど」と私の顔を窺いながら言った。

 たしかに希美のおすすめを聴けば元気が出そうだ。というか目が覚める。

 普段はふわーっとしている希美だけれど、音楽の趣味は意外にもデスメタルとかいうかなり独特なものだ。私はあまり音楽に明るくないので、そっかーくらいにしか思っていなかったけれど、流行りにくわしい優子たちからすると、なかなかマニアックなジャンルのようだ。

 以前、希美はそれを隠していた。そのくせ、放送委員の希美は自分が担当のお昼の放送時にリクエストだと言って好きな曲をかけていた。そのたびに優子たちにからかわれ、顔を引きつらせていたのを覚えている。

 そのたびに、おそらく希美の趣味なのになんでみんな気づかないのだろう、希美も笑われるのがいやなら無難な曲をかければいいのに、と思っていた。好きなものをはっきり自己主張できないのに、芯が強いというか、ぶれないというか、頑固というか。

 二学期の終わりにカミングアウトしてから、さすがに優子たちもからかうことはなくなったけれど。それどころか、優子に関してはちょっと興味を抱きはじめているらしい。

 そんな希美と優子に、ちょっとうんざりする。でも、ちょっと、羨ましくも思う。

 私には、譲れないほど大好きなものもないし、否定できるほど流行りやメジャーなものを知らないから。

 自分がなにを好きで、なにが嫌いなのか、自分でもよく分からない。

 みんなにはしっかりしているとか自分の意見があるとか言われているけれど、実際には自分の意見なんか、なにもない。ただ、正しいと思われることに沿っているだけ。

 ――だから、先輩のあのポエムに惹かれてしまったのかもしれない。

 あのポエムには、彼だけの想いが詰まっていた。

『せっかくの縁だしさー』

 先輩からの返事に書いてあった一文を思い出し、縁か、と心の中でつぶやく。考えようによっては、そのとおりだ。

 でもなあ……。

 思わず似合わないため息をつくと、希美に「明日の放送では元気になる曲かけるね!」と気合を入れて言われた。

「瀬戸山くんから教えてもらった曲があってね」
「えー、なにそれのろけなの?」
「ち、違うよ! 本当にかっこいいんだよ。なんかこう、内側から元気になる感じ!」