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忙しくてすみません
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二ノ宮先輩だったんですね びっくりしました
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いろいろすみませんでした
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私のことは 忘れてください
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さすがに先輩とお話するのは……
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どれだけ考えても、この交換日記を続けるという選択には至らなかった。
もちろん、もう少し、ノートを通して話をしてみたかったとも思う。けれど、先輩が名乗ったならば、私も名乗らなくてはいけない。
いや、そんなの無理でしょ。っていうかいやだし。
だって先輩は、私を知っている。
そんな相手と恋について語るとか無理無理無理! 今までのやりとりを考えると絶対名乗りたくない!
それに、私自身、相手が二ノ宮先輩だと知ってしまったあとでは、今までのようなやりとりはできない。なにを言われても、二ノ宮先輩が脳裏に浮かぶ。彼に接するように、私は返事を書いてしまう。
じゃあどうするか。
答えはひとつしかない。
ノートを靴箱に入れて、パタンと扉を閉めた。
その瞬間、肩の力が抜ける。
今までは返事を書くたびにどきどきしていたけれど、今日は心が穏やかだ。いつもの私のペースで、それはどこかさびしくなる。
「っていうか、二ノ宮先輩、好きな人がいたんだなあ」
教室に向かいながらぽつりとこぼす。
この前見かけた年下らしき女子だろうか。あの先輩が片想いをしているなんて、なかなかのビッグニュースだ。もちろん、誰にも言わないけれど。
よく考えると、私は二ノ宮先輩のことをほとんど知らない。
話しかけられても先輩のことを目立ちたがりの馴れ馴れしい人としか見ていなかったので、さっさと話を終わらせていたし、先輩の姿を見かけても、また変なことをやっているのでは、と思っていただけだ。
耳に入る情報と、目につく行動からなんとなくこんな人だろうと想像して、見て、接していた。でも、実際の先輩は、どんな人なんだろう。
好きな人のことを想って、薔薇だとか世界だとかという歌詞を 書く人。見知らぬ相手に歌詞の感想を求めて、一緒に学ぼうとまで言い出す人。
……変な人。
先輩は、もしもやり取りしていたのが私だと知ったらどんな顔をするんだろう。真面目な生徒会副会長としての私しか知らない先輩は、驚くに違いない。
胸にぽっかりと穴が開いたような虚無感に襲われながら、窓の外を見る。そこには、葉っぱを身につけていない寒そうな木々が、風で軋んでいた。
「名前、名乗らなくてよかったのにな」
残念に思いながら、独りごちた。
知らなければ、やりとりを続けることができたのに。
――その、はずだったんだけどなあ。