「寒いところでなにしてるんだか。もの好きだなあ」

 先輩は同級生らしい男女五人と一緒にいる。楽しそうに大きな口をあけて笑っているのが私の位置からでもよく見えた。風が吹いて、髪の毛が乱れているのも。体が冷えているのか、ポケットに手を入れて体を縮こませているのも。

 この前はブレザーを着ずに走っていて、今日も寒空の下で過ごしている。本当に風邪を引いてしまわないだろうか。

 先輩の進学先は知らないので、これから受験があるのか、それともすでに決まっているのかはわからないけれど、後者だとしてもクラスには受験組もいるはずだ。インフルエンザにでもなったらシャレにならない。せめてコートを羽織って出てきたらいいのに。

 先輩を見ていると、さっきまで浮かれていた気持ちがすうっと引いていき、生徒会副会長の、今までの私に戻る。そういう意味では二ノ宮先輩をこの教室に戻る前のタイミングで見たのはよかった。あのままだったら、希美と優子に心配されていたかもしれない。

 私もこんな場所でじっとしていたら体が冷えるだけなので、さっさと教室に戻らなければいけない。けれど、なぜか先輩を見続けた。

 寒いはずなのに、あの場所だけは太陽の日差しが降り注いでポカポカしているように見えるからだろうか。

 ふと、先輩が誰かに呼ばれたのか、渡り廊下のほうに視線を向けた。つられるように私もそちらを見ると、ひとりの女子がぺこりと頭を下げている。雰囲気からして、三年ではなさそうだ。なんとなく見覚えがあるので、私と同じ二年かもしれない。理系コースの女子かも。

 低い位置でサイドテールにしている女子に、二ノ宮先輩が近づいていく。

 学年の違うふたりには、どんな接点があるのだろうか。

 先輩とサイドテール女子は親しげに談笑し始めた。女子の片手が先輩の腕にそっと添えられる。彼女の頬がほんのりピンクな理由は、相手が二ノ宮先輩だからだろう。それに、先輩も私の知っているちゃらんぽらんで子どもっぽい雰囲気が消えていた。

 なんだか大人っぽく見える。

 ……彼女、かな。

 二ノ宮先輩に彼女がいるならもっと噂になっていそうな気がするけれど、つき合いたてなのかもしれない。

「なるほど」

 その言葉の意味は自分でもよくわからなかった。