「えー! 断ったの?」
「ちょっと、声がでかいって」
優子が大きな声で叫び、それを慌てて咎めた。
「あ、ごめんごめん。でも、はじめてじゃない?」
そばにいる希美も、驚いた顔で私を見ている。声には出さないものの、優子と同じ気持ちなのだろう。
誰かが私たちがふたりで話しているのを見たらしく、噂になっていたと教室にやってきたふたりに真相を訊かれた。わざわざ自分から告白された話をするのは苦手だけれど、訊かれたらウソをつくことはない。
ただ、今までと違うのは、私が相手の告白を断ったことだ。
「江里乃、今彼氏いたっけ? いないよね?」
「いないよ。半年くらいいないかな」
前の彼氏は帰りの電車で告白してきてくれた、他校生だった。ただ学校が違ったために、週に一度会えればいいほうですぐに自然消滅してしまったのだ。中途半端は気持ちが悪いので私から『もう別れたってことでいいのかな』とメッセージを送り、『ごめん』というよくわからない返事をもらった。なんで私が謝られなくちゃいけないのかさっぱりわからない。それを訊く気もない。
そのくらい、私は軽く、つき合ってきた。告白されて、悪い人ではなさそうだな、と思ったらとりあえず付き合ってみた。中学から考えると、つき合った人は五人。そのすべてが、告白されたのがきっかけだ。
多少見た目も関係していただろうけれど(それなりに整った顔立ちをしている自覚はある)、昔は、中身を見てくれているのだと思っていた。
でも、そうではなかったらしい。付き合ってしばらくすると、いつだって同じセリフで私がフラれる。『かわいげがない』『キツイ』『おれのこと好きなのかわからない』のトリプルセット。知り合いでないならまだしも、友だちだったのになにを今更と憤りを感じていた。けれど、三人目の彼氏、関谷くんのときに、もしかして私に問題があるのかと気づいた。
だからこそ、次こそは、という気持ちで四人目と五人目の彼氏と付き合ったのだ。この人は私を見てくれるんじゃないか、今までと違ったつき合い方ができるんじゃないか、と期待して。結果、惨敗したのだけれど。
「なんで今回は断ったの?」
希美が興味津々に身を乗り出す。
どう説明すればいいのか、自分でもよくわからない。
「なんとなく、かなあ」
少し前の私であれば、おそらくつき合っていただろう。悪い噂も聞かないし、生理的に無理な相手でもない。断る理由はなにもない。
でも、なんだか違うな、と思ったのだ。
「ポエムを書きそうにないから……?」