ちょっと夢見がちな、いや、ロマンチストな男子。小柄でかわいらしい少年が脳裏に浮かぶ。でも、意外にもスポーツマンだったりするかもしれない。柔道部とか剣道部の、筋肉質で体の大きな人かも。それはそれでギャップがいいな。

 口の端が持ち上がるのが自分でわかる。

 マフラーを引き上げて緩んだ口元を隠しながら、軽やかに教室に入った。

 返事、どうしようかな、困ったな、と思いつつも、なんて返事をするかをわくわくと考えてしまっている。なんだかんだ、断るつもりがない自分に気づく。

 自分が自分じゃないみたいに、心がふわふわしている。

 クラスメイトが増えてくるまでに返事を書かないと、と教室に入りコートを脱いでから席についた。まだ室内は寒いので、マフラーは巻いたまま頬杖をつく。

 目をつむってしばらく考えていると、ふと人の気配を感じて顔を上げた。

 去年同じクラスだった男子が、ドアの前で佇んでいる。彼のクラスは隣の隣、だったはずだけれど。

「どうしたの」

 呼びかけると、びくっと体を震わせてからゆっくりと教室の中に入ってきた。

 顔が、赤い。耳も。でも、それは寒さが原因ではなさそうだな、と感じる。その予感は正しかったらしく、

「裏庭で、話せないかな」

 と彼が言った。

 この時期に、この時間に、日当たりの悪い裏庭。

 わかった、と答えてコートを再び羽織り、彼と一緒に目的地に向かった。

 緊張しているのか、移動のあいだ彼が黙ったままだ。おそらく彼は、私が朝早くに学校に来ていることを知っていて、わざわざ自分も早く学校に来てくれたようだ。確実にふたりきりになれるし、人目を気にしないでいいので、昼休みや放課後に呼び出されるよりもありがたい。けれど、寒いのはつらい。言われるだろうセリフがわかっていながらこんなことを考える私は、この季節に負けないほど冷たいのかもしれない。


「去年から、好きだったんだ」

 裏庭にたどり着いて、彼は私と向かい合い言った。

「もし、よかったらつき合ってくれない、かな」

 彼は耳まで真っ赤に染めていて、けれど、私をまっすぐに見つめていた。とても勇気を振り絞って言ってくれているのがわかる。

 去年同じクラスだった彼は、男女問わず気さくに話しかける友だちの多い人だ。その人当たりのよさに惚れている女子もそれなりにいるらしい。たしか中学からつき合っていた彼女がいたはずなのだけれど、おそらく別れたのだろう。彼の性格からして、そんな二股なんてするような人ではない。

 同じクラスのときは、よく話をした。

 今でも、すれ違うたびに彼は私に声をかけてくれる。

 いい人なのだろう。悪い印象を抱いたことは一度もない。

 彼とつき合ったら、どんな感じなのだろう。今までそんなふうに見たことはなかったけれど、そばにいれば、なにかが変わるかもしれない。きっと、私は彼を好きになるんじゃないかとも、思う。

 ――でも。