「わかってるけどさー! 江里乃みたいに割り切った考えができたら、自分のこの嫉妬も受け入れて素直に言えるのかもしれないけど」

 割り切った考え、か。そうなのだろうか。勝手にうじうじもやもやイライラするって、時間の無駄じゃん。精神衛生上もよくない。吐き出してすっきりするか、仕方ないなと受け入れるほうが楽だと思うんだけど。

「あたしには無理。ムカムカして、しゃべりだしたらめちゃくちゃ責めちゃいそうなんだもん。そんなことするくらいならなにも言いたくない!」

 ぷいっとそっぽを向いて優子が俯く。希美が困ったように眉を下げて「せめてメッセージを送ったらどうかな」「一緒に行くとかは?」「中学校一緒なんでしょう」といろんな提案をする。けれど、優子は頑ななままだった。

「どうせあたしは素直じゃないし」
「そうふてくされなくてもいいんじゃないの?」
「江里乃が! そう言うと! 嫌み!」

 そんなこと言われても困る。

「江里乃みたいに、ウソ偽りなくやましいこともなく、堂々と振る舞えたらいいけどさあああああああ」

 ウソ偽りなく、やましいこともなく。

 優子に言われたセリフを頭の中で反芻する。

 私にとっては、目の前の優子のほうがずっと素直で、ウソ偽りなくやましさもなく、振る舞っているように見える。隠そうとしても隠せないほどに。なので、おそらく、米田くんにも今の優子の気持ちはばれてるような気がした(だからこそ口にしちゃえばいいのにと思う)。米田くんは、そんな優子をかわいく思っているはずだ。

 優子は『かわいげがない』『キツイ』『おれのこと好きなのかわからない』という、フラれ言葉トリプルセットとはまったく縁がないだろう。

 優子とは、恋愛の考え方で意見が合わないことが多い。でも、それはきっと私が悪いのだろう。恋愛に対する人の気持ちの機微を、私は感じ取ることができないのだ。

 だから、付き合ってもすぐにフラれてしまうのだろう。

 廊下の窓の先には青空の下、さびしげな裸の木々たちが揺れていた。ガラスに手を伸ばすと、ひやりと冷たい。透明で、冷たくて、見えるのに決して近づかせない。

 ――『ガラスみたいな人だね』

 昔、そう言われたことを思い出した。

 そんな私に、ノートの持ち主が求めるようなコメントやアドバイスはできないとあらためて思う。