だって、私は自分から誰かを好きになって告白したことがなく、いつも告白されたから付き合ってきただけだ。おまけにうまくいったことなんて一度もないのだから。その原因もわからない。

 その結果「自分の気持ちが大事だから、人の意見は無視したほうがいいよ」という無難な返事を手にいれたのでそれを繰り返している。

 そんな私が、彼のまっすぐな想いに、なにを言えるのか。



「もー!」

 四時間目の移動教室に向かっている途中、優子がぷりぷりしながら廊下を走ってきた。

 米田くんと放課後デートの話をまとめてくるとうれしそうにして教室を出て行ったのに、なにを怒っているのか。私と希美のあいだにぐいぐいと割り込んできて「もーもー! もー!」と牛並みに鳴いている。

「聞いてよー! ヨネのやつ! 今日の約束ドタキャンされたんだけど! しかも中学のときの友だちに誘われたからなんとか言ってさー」

 優子は歯ぎしりをしながら言った。

「たしかにドタキャンはよくないけど、まあ久々に会うなら仕方ないんじゃない?」
「うわ、でた。江里乃ってばクール!」

 そんな思考になれないよーと優子が抱きついてくる。今にも泣きだしそうで、とりあえずよしよし、と慰める。ドタキャンだけでこれだけショックを受けるってすごいなあと思ってしまう私は、優子の言うようにクールなのだろうか。

「別の日に約束したらどうかな?」

 希美の提案に優子は「やだ」と言ってぷいっとそっぽを向く。

「だってヨネの元カノも来るんだもん」

 なるほど、それが一番の原因か。

「だったらいやだって言ったら? 優子のことだからいやな理由、ちゃんと言ってないんでしょ。米田くんも優子の気持ちを知ったらわかってくれるかもよ」

「言えるわけないじゃん!」

 むきーっと優子が目を吊り上げた。瞳の奥には悲しさや不安が詰まっている。

 なんでそれを言えないのか、私にはわからない。いやならいやだと言えばいい。相手がそれを受け入れてくれるかどうかはわからないけれど、話さないことには自分の気持ちも相手の気持ちもわからないままだ。

 いやな理由がまったく無意味な嫉妬であれば「それは気にしないでいいでしょ」と言うけれど、元カノであれば、まあ、わからないでもない。

 ……正直言えば、それも気にしないでいいと思うけれど。

 優子は「一年もつき合ってたし」とか「嫌いになって別れたわけじゃないとか意味わかんないし」「元カノと友だちってなんなの」と不満げだ。

「うじうじしてないで、そんな意地張らずに素直になりなよ」

 そんなに落ち込むなら米田くんにぶつけたらいいのに。

 優子は苦虫を噛み潰したような顔をして私を睨んだ。