先輩と話すといつもこうだ。
彼に振り回されてしまう。彼の手のひらの上で転がされているような、そんな居心地の悪さを覚える。
「笑ってるほうがいいよ、江里乃ちゃんは」
「先輩が話しかけてこなかったら、問題を起こさなかったらいいんですけど」
これ以上目をつり上げないように心を落ち着かせながら反論すると、先輩は「たしかに」と愉快そうな声を出した。
「とりあえず、問題起こさないでくださいね」
先輩に背を向けて、廊下を歩く。そのあと、なにか言われた気がして振り返ったけれど、先輩の姿はもう見えなくなっていた。
……あの人は忍者かなにかなのだろうか。
そういえば、大事なハンカチは見つかったのだろうか。
まあどうでもいいかと再び前を向く。と、廊下の窓に自分の顔が映り込んでいた。外の青空の中に、私の不機嫌そうな顔が浮かんでいる。いつの間にか、私の眉間にはまたシワが刻まれていて、手で必死に伸ばした。
空を見るたびに 思い出すのは
水色に濡れた彼女の横顔
ふと、ノートに書かれていた一節思い出した。
実際にあったことなのか、想像なのかはわからないけれど、あの文章を書いたとき、持ち主には〝彼女〟が涙で顔を濡らした横顔の映像が浮かんでいたのだろう。空と掛け合わせるくらいだ、おそらくそれは、とても美しかったに違いない。
不満げな私の顔とは、雲泥の差があるだろう。
教室にたどり着くと、教室前の廊下で希美と希美の彼氏である瀬戸山が穏やかな笑みを浮かべて話をしていた。いつもまわりの目を気にしてばかりだった希美なのに、今は瀬戸山しか目に入っていないらしく、私に気づかない。
そして教室の中では、優子とその彼氏の米田が談笑していた。希美たちとは違って、このふたりはどこか友だちのような、けれどそれ以上に親しげな空気がある。
窓に映った私の顔とは、まったく違う表情を見せるふたりの友だち。
それは、とても遠い存在に思えた。
彼に振り回されてしまう。彼の手のひらの上で転がされているような、そんな居心地の悪さを覚える。
「笑ってるほうがいいよ、江里乃ちゃんは」
「先輩が話しかけてこなかったら、問題を起こさなかったらいいんですけど」
これ以上目をつり上げないように心を落ち着かせながら反論すると、先輩は「たしかに」と愉快そうな声を出した。
「とりあえず、問題起こさないでくださいね」
先輩に背を向けて、廊下を歩く。そのあと、なにか言われた気がして振り返ったけれど、先輩の姿はもう見えなくなっていた。
……あの人は忍者かなにかなのだろうか。
そういえば、大事なハンカチは見つかったのだろうか。
まあどうでもいいかと再び前を向く。と、廊下の窓に自分の顔が映り込んでいた。外の青空の中に、私の不機嫌そうな顔が浮かんでいる。いつの間にか、私の眉間にはまたシワが刻まれていて、手で必死に伸ばした。
空を見るたびに 思い出すのは
水色に濡れた彼女の横顔
ふと、ノートに書かれていた一節思い出した。
実際にあったことなのか、想像なのかはわからないけれど、あの文章を書いたとき、持ち主には〝彼女〟が涙で顔を濡らした横顔の映像が浮かんでいたのだろう。空と掛け合わせるくらいだ、おそらくそれは、とても美しかったに違いない。
不満げな私の顔とは、雲泥の差があるだろう。
教室にたどり着くと、教室前の廊下で希美と希美の彼氏である瀬戸山が穏やかな笑みを浮かべて話をしていた。いつもまわりの目を気にしてばかりだった希美なのに、今は瀬戸山しか目に入っていないらしく、私に気づかない。
そして教室の中では、優子とその彼氏の米田が談笑していた。希美たちとは違って、このふたりはどこか友だちのような、けれどそれ以上に親しげな空気がある。
窓に映った私の顔とは、まったく違う表情を見せるふたりの友だち。
それは、とても遠い存在に思えた。