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っていうか、女子だよね?
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女子の視点で感想くれたら助かるんだけど
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どう? あ、ここに書き込んでOKだから
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どう、と訊かれてもわかんないよ……。
どうして見ず知らずの、顔も名前もわからない相手なんかにそんなことを頼むのだろう。だからこそなのだろうか。顔見知りに見せるのは恥ずかしいか。どうやら女子視点を求めているということは、持ち主は男子のようだし。
でもなあ。
添削ならば、できないことはない。ぱらっと見た限り、〝役不足〟のところだけだと思う。この場合〝力不足〟のほうが正しい。ほかにも気になる言い回しはあるものの、あまり気にしなくてもよさそうだ。正しい日本語である必要はないと思う。
付箋を取り出し、とりあえず〝役不足〟についてコメントを書き込む。
大事なノートを私に託してくれたのだから、と念のためもう一度ノートを見直したけれど、誤字誤用は見当たらなかった。
あとは感想、か。
正直言って、添削と比べ物にならないほど難題だ。読んでいるだけで赤面しました、なんて言えないし、当然寒いとか痛々しいなんて言葉は禁句だ。
持ち主の手紙は軽い口調だけれど、ポエムは真剣に書いているに違いない。持ち主は真面目に私の、誰かの意見を求めているのだろう。
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これでいいかな?
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感想だけど、ストレートな表現から
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あなたの気持ちが伝わってきて
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ドキッとしました
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悩みに悩んで書いたメモを、何度も読み直し、書き直した。
けれど、毎回さほど変わらないコメントになる。これ以上躊躇っていても時間が無駄に過ぎるだけだ、と決心し靴箱に向かったのは昼休み。今入れていけば、放課後には見つけてくれるかもしれない。遅くても明日には持ち主に届くだろう。
悪いことをしているわけではないのに、靴箱の前でごくりと喉を鳴らし生唾を飲み込んだ。そして、まわりを警戒しながら一瞬で終わらせる。
こうして返事をするのは二回目だけれど、これほど心臓が早鐘を打つなんて、最近では記憶にない。去年の卒業式で送辞を読んだときも、生徒会役員のスピーチをしたときも、私は平常心を保てていたというのに。
それに、あの返事でよかったのかという思いがなくならない。もっと具体的に書いたほうがよかったのかもしれないが、いいとか悪いとか、私には判断がつかない。
薄っぺらい感想だな、と思われるだろうか。私の感想でこれは最高のできなのだ! と思われるのも困る。
読書感想文ならすらすらと迷うことなく書けるのに。
こんなに自分の書いたものが不安になるのは、相手がどう感じるかと心配になるのは、はじめてのことだ。
らしくない。
なんでこんな気持ちになるのか。
きっと、あのポエムのせいだ。あれにあった持ち主の気持ちは、見栄も体裁も無視した、取り繕うことのないありのままの姿だった。丸裸であまりにも無防備。そんなものを他人に見られるわけにはいかないと、私が警戒してしまうのだ。なんの関係もないというのに、当事者のような気分になってしまうのだ。
しかも〝ドキッとした〟とか、なに書いてんだ。
私はそんなキャラじゃないはずなのに!
思い出すと羞恥で悶えてしまう。
「……さっさと帰ろ……」
忘れてしまおう。いつまでもうだうだ悩むなんてそれこそ私らしくない。気持ちを入れ替えるために頬をぺちっと叩いて包む。体は寒い。なのに、顔は熱かった。