ほかのってなに。

 昇降口にメモを残した次の日の今日、私はいつもどおり朝早くに登校した。メモはマスキングテープごと剥がされていたけれど、念のため靴箱の中を確認する。そこには、昨日のノートが入っていた。

 持ち主に伝わらなかったのかと肩を落としながらノートを手にすると、ルーズリーフの切れ端が表紙に貼り付けられていたのだ。

 無事、持ち主に届いたことに安堵したものの、すぐに首をひねる。

 おそらく、このノートの中身を添削してほしい、という意味だろう。

 え? なんで私が? そんなことできないし。わかんないし。

 かといって無理です、と突き返すのも申し訳ない。それに、正直言ってほかのポエムに興味がある。どんなものを書いているのだろう。

 ……見て、いいってことだよね。そういう意味だよね。

 誰もいるはずがないのにきょろきょろとあたりを見渡してから、素早くノートをポケットにいれた。そして、足早に教室に向かう。

 暖房のスイッチを入れて、コートとマフラーをちゃんと教室のハンガーラックにかけて、姿勢を正して自席に腰を下ろした。ノートを机に置いて、深呼吸をしてから手にする。なんだか悪いことをしているみたいに、胸がどきどきと音を鳴らしている。

 よし、と気合を入れて開く。

 最初のページは昨日のポエムで、そこに持ち主が書き込んだのか、赤色のペンで〝薇〟〝引き際〟と修正されていた。

 そして次のページへと進む。



   好きで どうしたらいいのか わからないんだ

   きみに笑いかけてもらいたい

   僕を見て 君の瞳に僕を映して

   空を見るたびに 思い出すのは
   水色に濡れた彼女の横顔

   初めて会った日のことを 今も覚えている
   君は僕に怒って 僕は君に笑った
   きみと話せたことが 嬉しかったんだ

   君の涙を拭うには 僕では役不足だろうか



「っ!」

 数ページ目で、慌ててパタンとノートを閉じる。

 ――なにこれ、恥ずかしい!

 まるで、私に贈られているように感じて赤面してしまう。

 そんなわけないのに。わかっているのに。

 読んでいると体の中がむずむずするほどの、ストレートな愛の言葉は、思った以上に私の胸にダイレクトに届く。

 だめだ、落ち着こう。ちょっと呼吸を整えよう。

 胸に手を当てて、深呼吸をする。これは私へのものではない、誰かが書いた妄想だ、ただの文字だ。そう言い聞かせてから改めてノートを開く。

 その効果があったらしく、さっきよりも幾分冷静にポエムを読むことができた。

 ノートの半分くらいに、ポエムらしい書き込みがされてあった。物語を感じるものもあれば、思いついた文章を羅列しているだけのようなページもある。ペンの色がバラバラなのも、そのせいだろう。

 そして、最後のページには桃色のペンでメッセージが書かれていた。