歌はうまいし曲もすてきだけれど、絶妙にイタいというか、恥ずかしすぎて耳を塞ぎたくなるくらいにうれしい歌を聴いたあと、先輩に持っていたハンカチを差し出した。先輩はそれを、なにも言わずに受け取り、すぐに袋から出す。

「そのプードルよりうまくなってるので、よかったら」
「江里乃ちゃん」
「なんです――……わ!」

 ぐいっと手を引かれてバランスを崩す。そのまま先輩の体に体重をかけてしまった。鼻が潰れてしまい手で押さえながら「なにするんですか」と顔を上げる。と、近づいてきた先輩の顔が、私の頬に触れた。
 そっと、やさしく。

 一瞬なのに、頬には先輩の熱がしっかりと残される。

「な、なに、を」

 頬に手を当ててぷるぷると震える。不意打ちはやめてほしい。反応に困る。

 そんな私に、先輩は「あまりにかわいくてうれしいから」とへにゃへにゃと目尻を下げただらしない顔を見せた。そしてぎゅうぎゅうと私を潰すくらいの勢いで抱きしめる。

「ああー、せっかく両想いになったのに明日で卒業かよ。江里乃ちゃんと離れるのさびしいから留年すればよかったー」
「……留年なんかしたら怒りますよ」

 その言葉に、先輩が勝手に「本当はうれしいけど、俺の心配してるんだもんな」と言葉をつけ足した。勝手にそんな恥ずかしいセリフを足さないで欲しい。赤面しているであろうことがばれないように、先輩の胸に顔を埋める。

「江里乃ちゃん、俺と同じ大学来る?」
「行くわけないじゃないですか。自分の進路は自分で決めます」

 相変わらず、かわいくないことを口にしてしまう自分。そしてそんな自分に瞬時にへこむ。でも。

「離れてても気持ちは変わらないってことか」

 先輩に私の気持ちは丸わかりらしく、うれしそうに私のセリフに気持ちを添えた。気持ちが伝わっていることはうれしい。でも、羞恥に耐えられないのでいちいち口にしないでほしい。

 むうっと先輩をにらみつけると、

「顔に全部出てるなあ」

 と、先輩が相好を崩して私の頭をなで回した。




 先輩と一緒にいたら、この先きっと、私はウソがつけないだろうな。

 そんなことを思って口元を綻ばせながら涙を浮かべた。


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   あなたは私の世界 あなたは私の太陽
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   いつだって私にだけ笑いかけていてほしい
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   あなたがそばで笑ってくれるなら
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   私も薔薇の笑顔をあなたに
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