でも、運命の相手だと断言する彼女を思い出すと、そう言われも納得ができてしまった。どんな手段を使ってでも、彼女は想いに突っ走るのかもしれない。
「嫉妬したの?」
「あ、い、いや! そういうわけじゃ、なくも、ないかもです、けど」
こういう場合、否定すべきなのか認めるべきなのかがいまいちわからず、咄嗟に否定した者の徐々に語尾が小さくなっていく。
バカだな、と二ノ宮先輩はうれしそうな顔をした。
「強くて弱くて、でもやっぱり強い子なんだなって。そういう江里乃ちゃんに、惚れたんだよ」
惚れた、とはっきり口にされて、頬が紅潮する。
しかも、先輩はずっと、私の弱い部分に気づいていたんだ。だからいつも、私が悩んでいるときや落ち込んでいるとき、必ず気づいてくれたのだろうか。
「だから、俺にはわかるんだよ。江里乃ちゃんが素直で一生懸命で、隠しごとができない馬鹿正直者だってことが。だから〝ななちゃん〟のことも、な」
わかっていたのに黙っていたのは、これをきっかけに卒業までの短いあいだでも距離を近づけようと考えていたらしい。
「それに、普段は強がって隠す部分も見せてくれたから貴重だなと」
「……忘れてください」
なにもかもがばれてるとか、恥ずかしすぎる。
ウソを正直に伝えるのが怖いと思っていたのに、もうバレバレだったとか、羞恥プレイだろうか。長い間ずっと悩んでいた私って。
「どっちも江里乃ちゃんだからいいじゃん」
そう言って、先輩はそばにあったギターケースからギターを取り出し、曲を奏でた。
きみは僕に怒って 僕は君に笑った
この恋の潮時から目をそらして
うそつきな人を 僕はただ好きでいたいと願う
さっきはアカペラでよくわからなかった。
けれど、そのメロディは先輩が私をイメージして楽器店で弾いてくれたものだった。中庭でも、聴かせてくれた。
あれは、即興で作ったものではなく、好きな人に贈るつもりの曲だった。
「……ダサい」
「え、マジで?」
ふふっと涙を流しながら、笑って呟いた。
残した文字と交わした言葉、そのすべてがウソだったんだと思った。
本当の私はみんなが思っているほどしっかりしているわけじゃなくて、ただ、不器用で。交換日記の中にいた〝ななちゃん〟も、やっぱりウソだった。私という存在を隠して、ウソの人物を作り上げていた。
たとえ、それが私の本音でも。
それがウソより恥ずかしいのは、やっぱり私ではないからだ。
でも、どちらかじゃなくて、どちらも私だった。
どっちも同時に存在するのが、私だった。
先輩は、それをずっと前から見ていてくれて、そして、見つけてくれた。
「一日早いけど、卒業祝いです」
「嫉妬したの?」
「あ、い、いや! そういうわけじゃ、なくも、ないかもです、けど」
こういう場合、否定すべきなのか認めるべきなのかがいまいちわからず、咄嗟に否定した者の徐々に語尾が小さくなっていく。
バカだな、と二ノ宮先輩はうれしそうな顔をした。
「強くて弱くて、でもやっぱり強い子なんだなって。そういう江里乃ちゃんに、惚れたんだよ」
惚れた、とはっきり口にされて、頬が紅潮する。
しかも、先輩はずっと、私の弱い部分に気づいていたんだ。だからいつも、私が悩んでいるときや落ち込んでいるとき、必ず気づいてくれたのだろうか。
「だから、俺にはわかるんだよ。江里乃ちゃんが素直で一生懸命で、隠しごとができない馬鹿正直者だってことが。だから〝ななちゃん〟のことも、な」
わかっていたのに黙っていたのは、これをきっかけに卒業までの短いあいだでも距離を近づけようと考えていたらしい。
「それに、普段は強がって隠す部分も見せてくれたから貴重だなと」
「……忘れてください」
なにもかもがばれてるとか、恥ずかしすぎる。
ウソを正直に伝えるのが怖いと思っていたのに、もうバレバレだったとか、羞恥プレイだろうか。長い間ずっと悩んでいた私って。
「どっちも江里乃ちゃんだからいいじゃん」
そう言って、先輩はそばにあったギターケースからギターを取り出し、曲を奏でた。
きみは僕に怒って 僕は君に笑った
この恋の潮時から目をそらして
うそつきな人を 僕はただ好きでいたいと願う
さっきはアカペラでよくわからなかった。
けれど、そのメロディは先輩が私をイメージして楽器店で弾いてくれたものだった。中庭でも、聴かせてくれた。
あれは、即興で作ったものではなく、好きな人に贈るつもりの曲だった。
「……ダサい」
「え、マジで?」
ふふっと涙を流しながら、笑って呟いた。
残した文字と交わした言葉、そのすべてがウソだったんだと思った。
本当の私はみんなが思っているほどしっかりしているわけじゃなくて、ただ、不器用で。交換日記の中にいた〝ななちゃん〟も、やっぱりウソだった。私という存在を隠して、ウソの人物を作り上げていた。
たとえ、それが私の本音でも。
それがウソより恥ずかしいのは、やっぱり私ではないからだ。
でも、どちらかじゃなくて、どちらも私だった。
どっちも同時に存在するのが、私だった。
先輩は、それをずっと前から見ていてくれて、そして、見つけてくれた。
「一日早いけど、卒業祝いです」