その後靴箱に向かったものの、途中なにかを捜していそうな人は見かけなかった。

 さすがにこのノートを家にまで持ち帰ることはできない。持ち主に伝わるように、それでいて他人に見つからないように、どうにかして返さなければ。

 必死になって方法を考え、最近読んだ本のことを思い出し、賭けに出た。

 最近発売された海外ミステリの文庫本で、犯人の残したメッセージを読み解いていくものだ。つまり、些細なヒントから、なにかを見つける、というもの。

 ド素人の私に高度な謎かけはできないけれど、持ち主にはちゃんと伝わらなければいけないので簡単なもので大丈夫だろう。


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   薔薇の笑顔は ここに
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   左手の右手の上で 待っている
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 自分のノートに書き記したあと、そのページをきれいに切り取り、マスキングテープで昇降口の扉に貼り付けた。拾ったノートが落ちていた場所だ。探しているならばきっと見つけてくれるだろう。

 左手、つまりここから見て一番左の靴箱、の右手の上、つまり右上。

 そこにノートがあるよ、という意味だ。

 一番左端にある靴箱を使う生徒はいないし、壁に挟まれているためあまり目につかない場所だ。用事がなければここを除くこともない。

 でも、こんな拙いメッセージで伝わるだろうか。

 不安に思いながらも、私にはこれが限界だと自分を慰める。念のため、明日学校に着いたらすぐに靴箱を確認し、ノートが残されていたら別の方法を考えよう。

 最後に、と大きめの付箋を取り出し、ノートの表紙に貼り付ける。


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   とても愛情のこもった詩でした
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   勝手に見てしまってすみません
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