それができたら、もう少し私は自分を好きになれる気がする。

 今までの私と今の私を、見栄を張っていた自分と〝ななちゃん〟を。


 わたしは今日、卒業式予行練習のあとで先輩に面と向かって伝える。

 恐怖はあっても、迷いはない。



 先輩は、あれから一度も学校には来ていないようだった。おそらく、忙しくなったのだろう。そのあいだにもしかしたら告白のイベントを終えて恋人と過ごしているのかもしれない。そう思ったけれど、たまたま顔を合わせたときに澤本さんは「さすがに遊んでられなくなったんじゃない?」と言っていた。先輩の好きな人が澤本さんであれば、告白はまだのようだ。別の人なら、お手上げだ。

 ただ、そんなことは気にしても仕方ない。

 けれど、今日は卒業式前日の予行練習日だ。さすがに今日は先輩も学校に来ているようで、遠目からあのカフェオレ色を見かけた。

 二時間目に行われるので、在校生は出席せずに自習になる。けれど、生徒会役員は役割があるので三年生と一緒に予行に出ることになっていた。私がすることは、壇上にいる校長先生のもとに卒業証書を運ぶことだ。あとちょこまかと指示を出したり案内したり。

 予行練習は一時間もかからない。先に三年生が退場するけれど、すぐに追いかければ先輩と話す時間はあるだろう。そのタイミングで追いつかないと、三年生はすぐに帰宅してしまう。そんなことになったら、明日の本番しかチャンスがない。明日にそんな時間があるとも思えない。

 つまり、今日しかないのだ。

 ポケットの中を確認するように何度もスカートの上から手を当てる。

 入場からの練習なのですでに体育館にいる生徒会や吹奏楽部の準備が整うと、後ろの扉から卒業生が入ってきた。その中に、二ノ宮先輩の姿を見つける。ひとり、浮くほど明るい色をしているので誰よりも目立っている。桑野先生は鼻にシワを寄せて、肩をすくめていた。

 生まれてはじめて告白する時間が、刻々と迫ってくる。目を閉じてイメージトレーニングを繰り返す。もちろん、結果も。

 断られたあとに泣いてしまっては先輩が気を遣う。なんでもないことのように受け取らなくては。決して涙をこぼしてはいけない。そのためのイメトレだ。

 全員が体育館に入ってくると、司会役の教師が仰々しい声を出した。開式の辞、国歌・校歌斉唱、卒業証書授与、と続いていく。私の役目を終えて、指定の席に座った。先輩は大きな欠伸をして、眠そうな顔でけだるそうに座っている。

 卒業証書授与に半分ほどの時間を費やし、残りは式次第をマイクで伝えるだけで予行練習は終了だ。
 卒業生退場、という声と同時に吹奏楽部の演奏がはじまる。そして、三年生が一斉に立ち上がり、順番に入場のときに通った道を戻っていく。

「ちょっと、先にすみません」