でもやっぱり、緊張する。
ノートには『弱音を吐いてすみません』『もう大丈夫です』『今までありがとうございました』『先輩を応援しています』と書いた。ついでに『今までのお礼です』とも書いてしまったので、ハンカチを渡さないという選択肢はない。
弟や妹以外に自分が刺繍をしたものをあげるのははじめてなので、どう思われるだろうか。『返事は不要です』と書いたので私は感想を受け取ることはないだろう。
とりあえず今日は送別会なので、三年生は全員出席する。今日を逃すと、先輩は明日以降も返事のために学校に来るかもしれない。引っ越しの準備などに集中すべきなのに。
受け取ってもらえますようにと願いながら、鞄をぎゅっと抱きしめる。そして、先輩と交換日記の受け渡しをしている靴箱の前で、両手に息を吹きかけた。手をこすり合わせてから、カバンの中から透明フィルムの袋に入れられたハンカチを取り出す。あまり仰々しくならないよう、それでいて淡泊すぎることのないよう、すみに小さなリボンシールを貼っている。そして、交換日記も忘れずに。
私の手先が小さく震えているのは、もちろん寒さのせいではない。
ぱっと入れて、すぐに立ち去ろう。
一瞬でも躊躇したら勇気が消えてしまう。
――よし、と靴箱に手をかけた。
けれど、なかなか決心がつかない。
私は、悩んでいるのだ。
それでも、と腹を据えて靴箱の扉を開けた。
「え」
空っぽの靴箱があるだけだと、思っていた。けれど、そこにはあふれんばかりのお菓子が詰め込まれている。何種類ものキャンディにラムネに焼き菓子にチョコレート菓子、和菓子まであった。
「な、なにこれ」
誰が、なんて質問は愚問だ。先輩しかいない。返事がないことを心配してお菓子を詰め込んだのだろうか。使用されていないとはいえ、靴箱にお菓子って。でも、そこが先輩らしいとも言える。
ぷっと噴き出してしまい、同時に緊張がほぐれた。
とりあえずこのお菓子をなんとかしなければノートを入れることができない。かといってカバンに入れられる量ではない。
どうしようかととりあえず目の前にある棒つきキャンディを手に取ると、そばに一枚のルーズリーフがあることに気づく。
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俺はななちゃんのこと好きだよ
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甘いもので元気出して
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「……なにそれ」
く、と喉が鳴る。