「いや、待って待って。大丈夫、それはない」

 ひとりで話を進め出す佐々木さんを、慌てて止める。誤解は早めに解かなければならない。

「なら、いいんですけど」

 そう言いつつも、佐々木さんはどこか納得がいっていない様子だ。口をすぼめて、テーブルに視線を落とした姿は、拗ねているようにしか見えない。

「気にしてるのは、私じゃなくて佐々木さんじゃないの?」
「……江里乃先輩、本当に人の心をえぐってきますよね」

 ちろりと向けられる双眼に、うっすらと涙がにじんでいる、気がした。

 しまった、また言葉を間違えた。慌てて添える言葉を探す。

「えっと、そういう意味じゃなくて。気にしないでってことで」

 フォローもむなしく、佐々木さんは「そのとおりですから」としょんぼりと頭を下げた。

「今はつき合ってなくても、ふたりは――関谷先輩は――江里乃先輩が好きなんだと思ってました。仲がいいというか信頼関係がある感じで。お似合いでしたし」

 なんでそんなことを。

「いや、それは同じ生徒会ってだけだから。それに私別れてから彼氏いたことあるし、たぶん関谷くんも誰かとつき合ってたと思うよ。そもそもフラれたの私だし」

 現在つき合っているのにどうしてそんな話をするのか。

「関谷先輩は、自分が振られたって言ってました」
「え?」

 それは、おかしい。そんなはずはない。関谷くんがウソをついているのだろうか。でも、なんのために。
 佐々木さんはゆっくりと視線を持ち上げて私を見つめる。

「江里乃先輩はもともと自分を好きじゃなかったから、だから一緒にいるのがつらくなったって」

 そんなはずはない。

 でも、佐々木さんがウソを言う理由はない。

「ずっと、壁があったって」
 壁。それは、中学のときの友人が私に言った〝ガラス〟と同じ意味だろう。

 当時の自分を思いめぐらせる。あのころ、私はちゃんと彼のことを好きだった。なのに、またフラれるかもしれないからと、彼に対してどこか踏み込めず、取り繕って接していたに違いない。

 その結果、私は関谷くんを、傷つけた。

 傷つけて、彼は耐えきれなくて、去っていったのか。おそらく今までの彼氏も、中学のときの友人も。

「そっか」

 考えてみれば当然だ。私は愚かなつき合い方をしていたのだと実感する。

「でも、今は佐々木さんの彼氏なんでしょう?」
「そうですけど……」
「私みたいに考えすぎると、自分を守ることにだけ長けてしまうよ。そうすると、気持ちって伝わらないみたいだから、やめたほうがいいと思う」

 佐々木さんなら、そんなことにはならないだろうけど。苦笑しながら言うと、佐々木さんは「やっぱりつき合ってたときは好きだったんじゃないですかー」と情けない声を出した。