夕焼けを見つめる先輩の双眼が、うつろになっている。

 ただ、ときを消費しようとしているみたいに、見えた。

 ひとりきりの、先輩。

 先輩は、さびしいと言っていた。

 そうじゃないこともある。だからこそ、さびしくなることがあるのだと。

 私は、それを直接聞いた。なのに。

 ――『ひとりで行ってください』

 この前、私はその言葉を口にした。

 あのときの先輩の顔が思い出せない。自分の気持ちでいっぱいいっぱいになっていて、先輩を気遣う余裕がなかった。そして、あの日の先輩がどんな一日を過ごしたのかも、今まで想像もしなかった。

 あんなに私は先輩にすくいあげてもらったのに。

 好きになってもらえないからと、そんな理由で。

 私は、なんて自分勝手なのか。

 地面を蹴り渡り廊下に飛び出す。少しでも早くと先輩に駆け寄る。

「先輩!」

 先輩は目を大きく開けて、私を見た。その視線に体がわずかに怯むけれど、自分を奮い立たせて先輩に近づいていく。先輩は私から目をそらさず、じっと見つめてきた。

「この前は、すみませんでした」

 頭を下げて、言う。
 えっと、と言葉をつけ足しながら顔を上げて、手のやり場に困り前で組む。

「ちょっと、その、イライラしていて。八つ当たりでした」
「俺も強引だったから、いいよそんなの」

 はは、と先輩は力なく笑う。いつもよりも先輩からは生気が感じられない、空気を吐き出すような笑いかただった。

「すみません、本当に」
「……今、時間あんの?」

 以前したように、先輩はベンチをぽんぽんっとたたき、隣に座るように伝えてきた。お言葉に甘えて、のそのそと近づき座る。しおらしい私の態度に、先輩はぶふっと噴き出した。

「な……」
「いや、ごめんごめん。しょんぼりしてるから。垂れた耳が見えそうだな」
「動物扱いしないでください」

 むうっと口をとがらせると、先輩はもう一度ごめんと笑ってから携帯を取り出した。なにか操作をしてから、「ほら」と私に画面を見せる。

 そこには、黒猫のイラストが描かれていた。

 幾何学的で、でもあたたかな雰囲気があるのは、背景の淡いオレンジとかピンクとかグリーンのせいだろうか。デジタルで書かれているようなぱっきりとした部分もあれば、水彩絵の具を使用したような、自然なにじみも描かれている。

 デジタルとアナログが混在している。けれど、バランスが取れている。

 私は絵のことはさっぱりわからない。けれど、この絵はすてきだなと思った。

「なんですか、これ。すてきですね」
「俺の描いた絵。それを、見てもらおうと思ってた」
「――え」

 ばっと顔を上げると、先輩が「データいる?」となんでもないことのように言う。いや、そんなことより。いや、データは欲しいけれど。

「私に、くれるんですか?」