私は、そんな自分が許せない。自分が経験しなければ理解できなかった。私は、自分はそんなふうにはならないと思い込んでいた。

「瀬戸山くんのことも、江里乃のことも、大好きだから嫉妬しただけ。だから、江里乃が謝るようなことじゃないの」
「……じゃあ、私はもっと最低だ」

 今、私を苛むものは、希美のようにやさしさや愛しさからくるものではない。手に入らないものをくやしがって妬んでいるだけの、醜い感情だ。

「ああ、もうほんと、やだ。こんなことなら、好きになりたくなかった」

 私じゃなくなってしまうような恋なんて、しんどいだけだ。

「こんなことなら、今までみたいに自分を守っていたかった」

 弱音を吐き出す私のことを、ふたりはどう思っているのかと思うと、情けなくて仕方がない。どこがはっきりきっぱりしている副会長なのか。ぐずぐずじゃないか。

「気持ちが、コントロールできない。もうやだ、もうなんで好きになんかなっちゃったのかな。ああああもう」

 ぶちぶちと情けないことを吐き出す。

 一度口を開けばあとはもう身を任せるしかできない。ストッパーはなくなってしまった。なくなるまで出続けるだけだ。

「私さ、ずっと、両想いだろうって人しか、好きにならなかったんだよね。しかもつき合って も、きっといつかはフラれるだろうって思ってたんだよね。そう思っておけばショックを受けないから」
「え、両想いかどうかとか、そんなのわかるの? エスパーじゃん」

 優子に感心されてしまった。

「でも、今回は勘違いをして、好きだって思ってから違うのがわかって……結果こんな状態に陥ってるの」

 でも、それだけの理由なのかな。

 いやでいやで仕方ないのは、恋心に犯されているからというだけじゃない。今の自分と過去の自分を比べてしまうからというのもある。なんで今回はそんなことになるの。

 それは、今回が特別なのではなく、今までが間違っていたのだろうか。

「こんなのはじめてで、まるで初恋みたいだなって。でもそれって、今まではその程度だったってことなのかな。じゃあ、私って好きでもないのにつき合ってたのかな、とか考えると余計落ちる」

 やっぱり私は、今まで相当感情をおさえて過ごしていたのだろうか。

 最低だなあ、と肩を落としてつぶやくと、「え? なにが?」と優子が不思議そうに私に言った。

「よくわかんないけど、比べる必要はないでしょ。今までの人よりも好きとか嫌いとか。今までの人も好きだったって思ってるんでしょ。じゃあ好きでいいじゃん」

 ねえ、と希美に同意を求めると、希美も頷く。

「そのときどきで相手が違うし、自分も変わるんだから。今の江里乃の恋の仕方が、へなちょこでだめだめになるだけってことなんじゃない?」

 へなちょこでだめだめか。
 やっぱりそうなんだ。