「台風が来てます! みなさん、自室の窓を補強してくださーい!」
とある学生寮で寮母をしている私は、廊下から各部屋に向かって怒鳴った。学校と同じような造りのこの寮には、雨戸がない。
なので補強用のテープを持って廊下をウロウロしているのだけど、寮生は誰も出てこない。やる気がないのだ。
「無駄だよ。ガラスが割れるのなんて日常茶飯事じゃん。誰も怖がってないから」
そう言い、ひとりの寮生が私の横をすり抜けていく。ピンク色の髪をした彼は、両耳にこれ以上つけられない量のピアスをつけていた。
私はグッと奥歯を噛みしめ、怒りに耐える。ほんっとにここのクソガキどもときたら、人の言うことなんて聞きゃしない。
「テープを貸出しますから、希望者は管理人室まで来るように!」
早く厨房に戻らないと、夕食の仕上げが間に合わない。私は走って階段を降りていく。
「ひっ」
まだ空いている玄関の窓から、眩しい光が差し込んだ。驚いて身を屈めると、ドオンと落雷の音が響いた。
まだ学校から戻っていない寮生がいるのだろう。既に雨が降り始め、それはどんどん強さを増している。
数日前に沖縄県沖で発生した台風が急に進路を変えたことを知ったのは、昼休憩のときだった。
台風はものすごい勢いでこちらの地方に接近しており、夜には暴風域に入ると思われる。いそいで外に置いてあるプランターをしまうなど、準備しているのは職員だけだ。
寮生は「明日まで警報が続いたら、学校休みになるのにな」と、明日学校をさぼることばかり真剣に考えている。