雪に反射した朝日が窓から射し込み、瞼を開いた。
カーテンが引かれているのに明るい。
自室の窓際に寄せられたベッドで上体を持ち上げるとカーテンを開けて外を覗く。
思った通り、今日もよく晴れている。

この数日は気温が低いとはいえ、晴れた日が続いていたが、タキが来てからの一週間は毎日のように雪が降った。
降り続く雪で、もちろん店の客も少なくはなっていたが、想像していたよりもずっとマシだったのは間違いなくタキのおかげだろう。
現に雪の降らなかったここ数日は客足が伸びているほどだ。

窓から視線を動かし、続き扉の気配を探るが静かなもので、どうやらタキはすでに動き出しているようだ。
部屋に温もりを感じるところを見ると、台所兼リビングでは既にな暖炉に火が灯っているのだろう。

のそり、布団をはぎ寝間着のままリビングへと向かうがそこにもタキの姿はない。
アタシはその足で続く店の方へと歩き出す。
短い廊下を歩くとそこにはまた続き扉があり、扉を開くとその先は店のカウンターだ。
昨日アタシが舞台衣装に着替えに使った経路でもある。
そのカウンターの横はスウィングドアで厨房に繋がっていて、そこにタキの姿はあった。

「おはよう、起きたんだ」
「あぁ、おはよう。相変わらず早いね」

扉が開く音で気づいたのだろう、タキがこちらに向く。
軽いやり取りが心地よく感じる。
口調はいつまでたっても穏やかに落ち着いている。
けれどそれを他人行儀だと感じることは、ない。
きっとそれも元来の性格なのだろう。

「置いてもらってる身だからね。食事くらいは作らせてもらうよ」

今日もまた、至極当然とでも言わんばかりに笑った。

「ありがとう」

カウンターの上には、出来上がったトーストと目玉焼き、スープとサラダが並べられていた。
そして、二つのカップを持ってタキは厨房からスウィングドアを通ってぐるりとカウンターに出た。
ゆぅらりと湯気を上げるできたての朝食は、寝起きのアタシの食欲を十分にそそってくる。

「すぐに着替えてくるよ」

言い残して先程通った廊下を戻り、自室へと引っ込んだ。
夜着を脱ぎ、備え付けのタンスを引くと厚手のインナーと白いブラウスに袖を通す。
分厚いダークブラウンのスカートはほどほどに動きやすくて気に入っている。
ブラウスの上からはいつも着ているベストを着れば着替えは完了だ。
舞台に上がる時以外はいたってシンプルなものを好む。
ステージ上のアタシは、自分であって自分ではない。
だからか、街の皆には「昼と夜とでは全然違う」と口を揃えて言われるものだ。