その瞳には裏がない。
紡がれる言葉の全てが真実ではないかもしれないけれど、信用できるものと出来ないものとの線引きはできるつもりだ。
自惚れか、ただの馬鹿と言われればそれは仕方がないと思いはするけれど。
彼が言った『この街は、居心地がいい』という言葉はアタシの想いを汲んでくれるような言葉だった。
この街は、アタシの自慢だ。
王都からは外れている田舎の港街だが、何せみんな人が良い。
爺様も婆様も、両親も……、皆いなくなってしまって悲しみに潰されそうになった時。
この街の人は、同情や憐れみじゃなく、ただ共に同じく悲しんでくれた。
彼らがいなくなって悲しいと、共に泣いてくれた。
祖父母から受け継がれ、両親が残したこの店と、そして叩きこまれた踊りだけが残ったアタシをそのまま受け入れてくれた。
やがて共に、笑ってくれた。
「良い眼をしてるよ、アンタ。名前はなんて言うんだい?」
「タキ。君も綺麗な瞳だ」
「何言ってんだい。それより、タキ。この街に滞在中の宿と金のあてはあるのかい?どうだい、よかったら白薔薇にいてみないかい?アタシ、アンタのこと気に入った!」
アタシの提案に驚いたのは当人のタキだけではなく、周りの人々も同じだ。
確かに演奏家を雇うことはあるものの、自分から誘うなんて、まして宿の提供までするなんてのはアタシが店主になってから初めてのことだ。
周囲がやんやと囃子たてるのも無理はないかもしれないが、どうにもタキにもっとこの街を好きになってほしくて想いのままを口にしていた。
「それはありがたい」
驚いたようだったが、この提案は魅力があったようで二つ返事で受け入れてもらえた。
「これから宿を探そうと思っていたところだ。力仕事でも家事でも店のことでも、なんでもさせてもらうよ」
「ックク、そうだね。家事をやるタキというのも良いかもしれないが……。アタシの踊りに華を添えてくれはしないかい?」
「というと?」
「楽器は演奏できるかい?」
アタシの言葉に、にこりとタキが笑って言った。
「歌とギターには自信がある」
「良いじゃぁないか!」
「それじゃあ、決まりだな」
「よろしく、タキ。アタシはカレンだ」
「あぁ。よろしく、カレンさん」
こうしてタキは、アタシの店に住むことになった。
こうして思えば、実にトントン拍子に話が決まったものだが、タキというこの黒い青年は、本当に、実に不思議な引力を持つ男だったのだ。