「―――そうして踊り続けた舞姫は、誰に看取られることなく逝ったそうだ。けれどその顔は美しく穏やかな顔をしていたそうだよ。……さぁ、これでお話は終わりだ。ゆっくりとおやすみ」
「ねぇ、おばあちゃん。躍り続けた舞姫は幸せだったのかな?」

まどろみの中で孫が呟く。
どうやら、眠りの限界が近付いているらしい。

「そうだねぇ。それは彼女にしか、わからないね」
「そっか。……でも、きっと幸せだったんだと思うよ、カレンは」

その言葉に、にっこりと微笑んで頭を撫でると、すぅ、と眠りについた。






―――幸せだったよ、アタシは。

眠れる過去の自分が確かにそう微笑んだ。


「寝たのかい?」
「ぐっすりだよ」

いつの間にか傍らに立っていたその人は優しく孫の頭を撫でる。

「舞姫の話は悲恋なんだろうか」
「どうかな」
「タキの過去の話なんて血腥くてとても本当の話を子供には話せないね」
「違いない。優しいこの子には話さなくても良いんだよ」
「そうだね。……タキは幸せだったかい?」
「一言で表すことは難しいけど、結局、カレンと過ごした一年が一番幸せな時間だったことには違いがないだろうな」
「そうかい。でも今、アンタと過ごせているこの時間も、アタシにとっての宝だと思うよ」
「……俺もだよ」











私の奥底で、魂が揺らめく。

踊り続けたアタシを。
待ち続けたアタシを。

他人は笑うだろうか?
他人は呆れるだろうか?


それでも、アタシは幸せなんだと思う。
タキに永住の地はなくても、あの約束がタキと私とを繋ぎ続ける。



黒い瞳に、黒い髪。
背中の大きな、傷の痕。

緑の瞳に、軽やかなカールの栗色の髪。
絹のように滑らかな肌と、魅惑的な身体。
指先の、鮮やかな赤。

―――カレン。
―――タキ、来たのか。
―――ようやく、一緒になれる。
―――これからは、永遠に、共に。







舞姫-遠い記憶が踊る影- 完