昨日通達に来たばかりの衛兵と隣国からの使者を名乗る者は、仕事が早く、翌日から隈なくこの街の家々を調べた。
しかし殺人鬼のそれらしい影は見当たらなかった。

「黒髪黒目の、音楽家はどこへ行った?」

衛兵たちは当然のごとく聞く。
だからアタシはこう答えるのだ。

「知らないよ。もともとアレは流れ者だ。それに喧嘩別れした人に、行く先なんて聞くわけないだろう?」

あからさまに顔をしかめた衛兵にアタシはさらに畳み掛ける。

「一度知り合った縁もあるんだ、どこかで見つけたらアタシにも知らせておくれよ」

追い返したところで、まだそこに衛兵と使者がいると思うと扉のこちら側で肩を揺らすこともできない。

聞き込みを続けていたそいつらに「だから言ってるだろう、殺人鬼などこの街にはいやしないって」と街のみんながが口々に言う。
その一方で、みんなはアタシに何も言わず、それでも寄り添ってくれる。
両親を無くした時のように。
そして成果を得ない衛兵たちは不機嫌を露わにした顔で、数日の後この街を出て行った。


その後、黒髪赤眼の殺人鬼がどこかで捕まったという話は、聞いたことはない。



人は、呆れるだろうか。
笑うだろうか。

最期のその時まで、アタシは踊り続けた。
白黒の世界に映える、唯一の赤。
彼がアタシを想っていたことも、アタシが彼を想っていたこともこの街のみんなが知っている。
突然いなくなったタキを悪く言う者はこの街にはやはり居なくて、それでも、もう戻らない彼を想い踊り続けるアタシをみんなはどう思っていたのだろうか。
誰かに寄り添えることもなく、ただ一人。
それでもタキを想って踊り続けた。









人は最後にそんなカレンの姿を“一途”と呼んだ。

その生涯を閉じる時まで踊り続けた舞姫の最期を看取る者は、誰もいなかったという。
夜半に自宅で亡くなったカレンは、明くる朝、隣人がスープを分けにやってきたときに発見された。
いつも座っていたソファから少しばかり離れた場所で、白髪となっても美しいままの長い髪に、美しいドレスを身に纏い。

それはそれは穏やかな顔をしていたという―――…


静かになった家の窓辺に一輪の薔薇があった。
鮮やかではなく深い赤、ワインレッドのようなどこか苦味を帯びた薔薇。
寄り添えるつがいもなく、ただ一輪。
図らずも満月が照らした花びらを濡らす滴は、窓を開けたおりの雪の名残か、あるいは……