月の無い新月の真っ暗闇の中。
アタシたちは、一つの選択をする―――……。


「これが限界、だな。優しくて居心地が良くて、本当に長いことここに留まってしまった。けれど俺がここにいたら街にまで迷惑が及ぶだろう。今更かもしれないけれどね。でも、だからこそ俺は行かなくちゃ。……カレン、君に約束をしたい。いつでも俺の心は、君と共にあることを。“ただいま”と、思える場所は、カレンだけだと」
「それなら、アタシもタキに誓うよ。アタシはずっと、ここにいてタキを想って踊り続けるよ。例えば魂だけになって、タキがここに戻ってくるときにだって迷わないよう、共に在れるよう、踊り続けるよ。アタシの舞とこの赤を目印に、アタシのもとに戻っておいで」


手の甲にキスを落とされ、ピクリと肩が上がった。
それはタキとの最後の会話。
見つめ合わせるその瞳は黒く、揺らめいている。

「忘れない。この栗色の髪も、肌の温もりも。君の瞳も……この爪の赤も。カレンを形作る全てを、忘れない」
「忘れたりなんかするもんか。髪も、瞳もその背中の傷だって忘れない。時が記憶を置き去りにしても、タキが持ってるその熱も心が覚えているはずだよ。だからその全てがアンタが生きている証だ。タキという名前も、ティン・クレイという名前も忘れない」

絡めた指は力を増して、愛しく、優しく、切なく、激しく、狂おしく。

どんな言葉を並べても、ちっぽけで陳腐で。
ただただ、目の前のタキを“想う”。
心の隙間を埋め尽くすように、離れる距離を、惜しむように。


いや。

ただただ、瞳に映る男が愛しいがゆえに。
互いの感情が伝わるほどの、キスを交わして。
互いの熱を共有した。
薄く開いた窓から、冷気を孕んだ一筋の風が差し込んだ。



―――そして、タキという一人の青年はこの街から去って行った。