家の中からやり取りを聞いていたタキは、静かに涙を流した。
アタシは、ぎゅっと、そんなタキを抱きしめた。
「タキ、聞こえているかい?これが今までアンタがしてきたことの結果だよ」
泣きながらアタシの腕にしがみつくタキは小さな子どものようで、いつの間にかアタシの頬も濡れていた。
その後、何やら、少しばかり街のみんなと衛兵が言い合っていたようだが、やがて衛兵は仕事を終えて帰って行った。
しばらくして、ドンドン!と、扉を叩く音がして、サガイおじさんの声が聞こえた。
「タキ!カレン!あんな奴ら気にすることぁないぞ!堂々としてろ!」
アタシ達が聞いていたのを知っていたかのようにサガイおじさんは言ってくれた。
ありがたくて、あたたかくて、このままずっとこの手を離さずにいられたら良いと願ってしまった。
その夜の店は、いつもに増して人でいっぱいだった。
ステージにタキが上がると、深々と頭を下げた。
「今日。黒髪、黒目の流れ者を尋ねられた時、かばってくれてありがとう」
「タキ!俺たちゃぁお前がどんな奴か知ってる。なんてこたぁねぇ、俺たちゃ俺たちのしたいようにしただけだ」
「なぁ、みんな?」と、レイが言うと誰もかれもが頷いた。
「いっそ流れ者じゃなくて、ここに留まればいい。カレンと一緒になっちまえばいいじゃねぇか」
ドーシャおじさんが声を上げる。
タキは「ありがとう」と、また深く頭を下げた。
アタシはこの時もう、分かってた。
分かってたんだ。
「アタシからも、ありがとう!今日はアタシのおごりだ、みんな楽しんでっておくれよ!」
楽しく、賑やかな、そして温かな夜だった。
人のぬくもりに触れ、改めてアタシはこの街が好きになった。
自慢の街だ。
そっと横目にタキを見る。
人々に囲まれては、笑顔を絶やさず「ありがとう」と繰り返す。
「タキさん、嬉しそう。もうずっと、カレンさんと一緒にいるんじゃないですか?この街のことも、好きなようですし」
ハンナが、タキの笑顔にそう嬉しそうにつぶやいた。
アタシはその言葉を「そうかい?」と、曖昧に笑って濁した。
本当に、穏やかな夜だった。