暖炉に焚火をくべ、部屋を暖める。
軽い朝食。
季節が巡っても変わりのない日常を送っていた。
やはり噂話にびくびくとしながら過ごすよりも、変わりのない日常をアタシ達はいつだって求めた。
アタシ達はただ、平凡で平和な幸せを求めた。
それが本当に幸せなのかと問われれば、それはアタシにも分からない。
願望が見せるまやかしの幸せなのかもしれない。
それでもタキは、この街を未だ去ることはなかった。

「今年もあんな雪になるのかな」
「いや、去年ほどということはないだろう。去年は特別に降ったからね」

買い出しのために街を並んで歩くと、顔なじみの人々に声をかけられる。
それに応えながらアタシ達は買い物をする。

「いらっしゃい、カレン。いらっしゃい、タキ」
「あぁ、ライク。今日も寒いね」
「今年の初雪だね」
「そうなんだ。お蔭で今日は入荷も少ないよ」
「それでもここは良いものを置いてるよ」
「またまた、うまいこと言っても何も出てこないよ」
「そりゃ残念だ!」
「そう言えば、もうそろそろタキが来て1年になるね」
「あぁ、そうだね」
「もうすっかりタキもこの街の住人だ」

にこっと笑って言ったライクに、タキも笑った。
そんな些細なことが、アタシはとてつもなく嬉しかった。

買い物を済ませて戻ると、路地には子供たちが学校を終えて遊ぶ姿。
そして母親たちの井戸端会議に、男たちの談笑。

「よぉ、カレンにタキ」
「やぁレイ。精が出るね」
「こんにちは」

路地に出ていたレイが、明後日辺りにまた雪だろうとお得意の天気予報を披露している。

「レイが言うなら間違いないね。明後日の雪に備えるとしよう」
「雪の季節があるから土や緑の季節の恵みがありがたいとわかる。しかしまぁ冬が厳しいことには変わりがねぇな!」
「まったくだよ」
「タキもこの街に来てそろそろ1年か?よくもまぁこんな季節に旅なんざしてたもんだ」
「本当にね」
「いっその事もうこの街にずっといて、カレンを貰ってやったらどうだ」

タキも穏やかに会話に参加していたのに、レイがそんなことを言うもんだから言葉に詰まってしまった。
それはアタシも同様で、レイだけがにやにやとしている。

「……アタシもそれはそれで大歓迎だけれどね。タキの心はタキにしか決められないさ」

アタシは肩をすぼめておどけるしか出来ず、タキは「ごめん」と呟いた。
何か事情があるのかと察したレイは申し訳なさそうに、だが気を利かせてコロッと話題を変えて後腐れなく話を続けた。

レイと別れたあと店に戻り、二人きりで残った気まずさを振り払うように店の準備に取り掛かる。
やがてジェイムズやマリィ、ハンナがやってくる頃には“いつも通り”を取り戻していた。
準備が終わると、演奏と踊りの確認をして、ようやく一息つく時間だ。
椅子に腰かけて、コーヒーを飲むと肩の力が抜ける。
その時間が好きだった。