アタシはいつも通りに踊りを舞い、タキはいつも通りに演奏をする。
澄んだ歌声と、ギターの音色。
アタシの踊りに、より華を持たせてくれる。
アタシの踊りも、タキの演奏に華を持たせていられたらいい。
混ざり合い、調和しあい、共にあれたらいいと願い、踊る。
今日はその想いが、一層際立つ。
何があったって、ここにいる。
アタシは、ここにいる。
目の前の客たちに向けての踊りというより、タキに捧げるような、そんな踊りだった。
タキが来てから初めてこの店に来た船乗りたちも、そのステージに充分酔いしれたようで、いつもよりも多くの拍手と歓声が店を包んだ。
いつも通り……そう、表面上は努めていつも通りの、夜。
夜の街を、月が見守っていた。
大丈夫、この街は貿易も盛んな港町。
追手が来たとしてもその噂は街を駆け抜けるだろう。
だかまだ、大丈夫だよ。
窓の奥に、黒い闇。
覗く月は満月の。
ガラスに写る……二つの、赤。
「これが俺のありのままだよ」
「……タキの瞳は美しい。とても綺麗な赤だ」
アタシはタキの頬に手を伸ばす。
爪先を赤く染めた手で、その肌に触れ、背伸びをして唇を寄せる。
優しく重なる唇がカサカサと乾燥していて、それを潤すようにどちらからともなく、深く口づけた。
その夜。
アタシたちは初めて熱を共有した。
互いの素肌に熱を移し合い、刻み込む。
吐息が絡まり、どこまでも深く、求め合う。
タキの背中には傷があった。
15年の歳月を越えてなお薄まることのないその傷に、唇を寄せ、癒すように舌を這わす。
ピクリ、反応して、けれどタキはされるがままになっている。
つるりと滑らかな、引き締まった他の部分の肌に比べ、不自然にみみず腫のように幾重に重なる膨らみが舌に伝わる度、切なさと苦しさと愛しさが募る。
まるで動物のようだと思いながら。
「カレン、俺の本当の名はティン・クレイ。何も君に贈ることはできないけれど、ただ唯一、偽りのないこの名前を君に預ける」
不安げに揺れる赤い瞳。
それはきっと今後の行く末を見ているのだろう。
「タキだよ、アンタは。ティン・クレイであると同時に、間違いなく、タキなんだよ。アタシが惚れたのは、目の前のアンタだ。呼び方なんてどっちでもいいさ。……本当の名前も、タキという名前も、アタシが預かるよ」
月の光が、優しく包む。
愛しい。
ただこの男が、愛しい。
ぐっと顔を寄せて、唇を重ねた。
アタシは多分、その名前を、きっと忘れることはないだろう。
「タキ、見てごらん。この赤は、アンタのための赤だよ」
両手の爪。
そこに色を施した。
しゃれっ気の無いアタシが、唯一、誰かのためにしたいと思ったこと。
この赤でアタシはタキに縛られる。
そしてこの赤に、タキも縛られるのだろう。
「この赤はね、タキ。アンタの苦しみと……そして、幸せだ」
強い束縛をまるで神聖なものだとでも言うような自分に嫌気がさすけれど、それは本心だ。
タキにだって、幸せはつかめるのだと。
その体を抱きしめた。
二人のすべてを分け合うように、抱きしめあった。