はじめの船が寄港してから数日。
アタシ達はいつものように、店に必要なものを買い出しにライクの店へと足を運んでいた。

「やぁカレン、タキ!」
「おはよう、ライク。今日も船が帰ってきたね。最近は忙しだろう」
「お蔭さまでね。カレンの店にもきっとまた流れ込むぞ」
「ありがたいことだね。今から支度しないといけないよ」

なんでもないやり取りでいつもより賑わう街中を話す。
手際よく商品を詰めてくれて、代金と引き換えるとライクはおまけに世間話を一つ。

「はいよ。あぁそうだ、隣の国の噂話を聞いたか?」
「いや、聞いてないね」
「なんでもちっちゃい村の話らしいんだけどよ。役人が逃げた男を躍起になって追いかけてるらしいんだ」

遠方から無事に帰ってきたみんなが、返ってきたその日から店に集まってくるのは、毎度の光景だ。
そして、帰ってきたみんながこの港町に、方々の旅先で得た色んな情報を持って帰ってくるのもまた、いつものこと。
ライクはそんな情報の一つとして話を繰り出したのだろう。
いつもなら次々に話される情報を「そうか、そうか」と相槌を打つくらいで、聞くともなしに聞いていた。
けれど、今年はどうにも耳についてくる。

それを聞いても、平静を装うくらいしかアタシにはできないけれど。
タキもまた同じく、いつも通りの顔をしているのだけれど。

「どうやらこの近くまで追いかけてきているらしいぞ。まぁそいつがこの街に来たとしても流れ者が多いこの街で見つけるなんて至難の業だよな」

そう言って見送られ、アタシ達は店へと帰る。
お互いにあくまでもいつも通りに。

「赤い目の殺人鬼って話だよ。家は床中血だらけで、警察官一人と家族三人を殺したってよ」
「助けに入ろうとした警察官がその姿を見たんだろう?ナイフをもって襲ってきたとか」
「当時まだ15そこいらの子供だったって話じゃないか。それから15年というが……今は30そこそこってところか」

平和なこの街ではスキャンダルが珍しく夜の店でも3分の1はこの話題だった。
おかげで今の情報がよく分かる。
追われているのは、間違いなくタキであるという事が。

「でもなんだって、そんなに長い間小さな村で起きた事件なんて追ってるんだ?」
「なんでもその村のお偉いさんが国に泣きついたって話だ」
「殺された方の警察官がどうやらお偉いさんの息子だったと聞いた」
「その村は昔から国の方へ色々と貢いでたらしいじゃないか」
「あぁ、そういう悪知恵の働く奴だったのか」
「その例の殺人鬼は未だ捕まらずに方々を転々としてるらしくて、それがどうやら気に食わないと言っていたが……」
「まぁなんにせよ、物騒な話だなぁ」

客達の話はアタシ達をいやに冷静にさせた。
そのうちに、この街にも追ってくるだろう。
それは一週間後かもしれないし、はたまた数ヶ月後かもしれない。
けれど、やがてこの街にもやってくるのは間違いないだろう。