客を見つめる緑の瞳はつややかに。
視線も、指先も、腰つきも、アタシと言うものを、艶やかで扇情的に。
括られた栗色の髪が揺れるを視線の端に捉えた。
カーブした髪の動きさえもアタシの踊りの一部であるように踊る。
頭のてっぺんから髪の先、指先、爪先……
アタシを形作る全てを使って今、目の前に居る客を虜にする。
それがこのステージ上でのアタシの存在意義だ。
踊っている間、あたしの心も高まりをみせ心地の良い汗が背を伝う。

タンタン、タン!
歌の終わりとともに、高いヒールを踏み鳴らした。
一礼して息を吐くと、それに煽られるように客達が手を鳴らす。
まさに盛り上がりの絶頂という独特の熱を孕んだ店内に、ひゅぅっと一筋の風が流れ込んだ。
それは日常的な風景ではあるものの、何故かどことなく違う風を運んできた。

扉が開いて風が店内をめぐる瞬間、盛り上がりきった店の熱気を冷ましていく。
けれどそんなことにはお構い無しに、踊りは続いている。
次の踊りも皆がよく知っている歌で、誰かが歌い、相変わらず客たちは魅入るようにアタシを見ている。
殆どの客が食事や酒の手を止めてアタシを見つめている。
誰かが店内に入ってきたことなどお構いなしに。

橙のランプが照らす店に、黒の外套を纏い、ふらりと“彼”が入ってきたのをアタシはステージの上から確認をした。
開いた扉の隙間から夜の闇といつの間にか降り出していた白い雪が見えた。

アタシが踊っている間は、ハンナかマリィが客の相手をする。
ハンナもマリィも、もう長いことこの店に勤めてくれているし、この街のみんなは兄弟みたいなもの。
マリィが動いたのを確認したアタシは、今の自分がなすべき仕事、つまり、踊りに集中することにした。
手先、足先に至るまで見る人を虜にさせるよう踊りつづける。
今入ってきた彼さえも虜にせんばかりに、体中で芽吹く前の種のように想いを表していく。

間もなく、降り出した雪は街を白く染めていくことだろう。