「留守番を……してたんだ」
タキは目を伏せて、再び話し出した。
「山に暮らすようになっても、もとの村の活気まではまだいかずにいたみたいだよ。10年の間には落ち着いたときばかりじゃないからね。雨が続く年もあれば、日照りの年もあった。きっと村ではそういうのもずっと俺のせいになってたんだろうな。その年は、日照りの年だった…」
未だに怯えているタキは心を閉ざしたままで、目を合わせると分かると言っていた深層心理を読むその力も閉ざしているのだろうな、と漠然と理解する。
例えば、今のアタシの感情に嘘偽りなくタキを想う気持ちがあったと分かっていても、この先の話を聞くとどう変化するかはわからない。
多分、そんな怯え。
「両親と兄さんは、度々、どうしても必要なものを村に取りに行っていたんだ。自分たち家族を嫌煙する村の人の中にも、そんなのは関係ないとかばってくれた人がいるから……。どうしても村に出向く必要があるときには、その人を頼って出て行っていた。さすがに自分が村に出向くことはできなかったけれどね。その日はちょうど、そんな日、だったんだ」
アタシはタキの様子を見て、この後に語られるだろう凄惨な過去に瞠目する。
「唐突に家の扉が開いた。その乱暴な開け方に、家族が帰ってきたわけではない事にはすぐに気付いたよ。玄関を見ると、長身の男が二人、血走った目で俺を見ていた。今でも思い出せるよ。髭を生やした男と、眼鏡の男。二人とも体格が良くて、警察の格好をしていた。つまり、村からの命令ってことなんだろうな。国からの命令だったら、とも考えた事があったけど、今にして思えば国にまで俺のことが聞き及ぶとも思えないし。国からの命令ならきっともっとたくさんの警察が押し寄せると思うから。多分、この時はまだ村の単位だったはずだ」