あたしは思わず頭を振る。

「過去の話なんかじゃあないじゃない、そうだろう?タキには未だ苦しみが残っているんだろう?違うかい?その苦しみは過去の物なんかじゃない、今のタキが苦しんでる物だよ。それを否定するからいつまでも“今”の幸せを受け入れられないままなんだよ」

他人行儀ではないが、一線を隔すタキ。
そこには恐らく、その第六感とやらを遮断する為の手段も含まれているのだろう。
けれどアタシには、その姿は今ある幸せをかたくなに拒否し続けているようにさえ見えた。
手を伸ばせば掴める幸せに、自ら目をそらして、掴もうとはしない。
自分は決して“愛されてはいけない”のだと。
“人を好きになってはいけない”のだと。

人に深入りすることを避け、いつまでも“流れ者”でいる。
きっと、それはタキが自分の身を、心を、守る手段の一つだったんだろう。
不用意に覗いてしまったその人の心の本心が自分を否定しているものであったら、怯まないわけがない。
そんなことはわかってる。
分かってはいるが、言わずにはいられない。

「ねぇ、タキ。アタシは昨日からずっと言っているだろう?聞こえていたかい?アタシは、タキが好きなんだって。タキの目が赤かろうと、金色だろうと、例えば化け物だろうと、悪魔だろうと、アタシは今目の前にいる“タキ”が好きなんだ。この気持ちは、今のあんたに届いているかい?」

言いきった後には、涙があふれて……けれど、その涙を見せることなんてしたくなくて、堪らずうつむいた。
にじんだ視界の端で、タキの手がピクリと動いた気がした。

アタシはタキが好きだ。
どんな正体であっても。
それは確かな気持ちだ。
タキはどうだろうか、アタシの本当を知ってもアタシの側に居てくれるだろうか。