「病院に行っても診てもらえば健康そのもので、むしろ、両親の虚言が疑われた。今となっては満月が引き金だと分かっているから、金色に染まった瞳で面と向かって立ち会いに行って両親への侮辱を取り消して欲しいものだけれどね。そんなことは当時できるはずもなくて、医師からの心無い言葉はどれほど悔しかっただろうな。特に異常はないと診断されても、俺はなるべく人と目を合わせないように俯きながら過ごしてたよ。人の心の深淵なんてわからない方が良い。今は第六感も随分コントロールできるようになったけれど、当時はできる対策といえば目を合わせないようにする事だけだったから。そうやって一月過ごして、満月の夜。また、オレの瞳は金色に染まった」

ぎゅっと眉間による皺は、自分自身への責めだろうか。
アタシは何も言えない。

「隣の家のおばさんがちょうどやってきていた時だった。母さんは玄関先でしゃべってて、扉が半分開いてた。……そこから、月が見えたんだ。いつも俯いていたのにどうしてその時顔を上げてしまったんだろうな?月が丸くてきれいだなって思った時には隣の奥さんが俺に気付いて。頭を撫でてくれようとした時に目が合ってしまった。そこには恐怖の感情が蠢いていて、金色になっていた俺の瞳を見てはっきりと『化けもの!』と言って走り去っていったよ。母さんは呆然としていたし、兄さんは肩を震わせていた。……両親や兄さんが離れてしまうかもしれないと思うと怖くて、とても目を合わせることが出来なかった」

恐れられる金色の瞳、というものにアタシは心当たりがひとつあった。
ここ、白薔薇の店主にのみ口頭で伝えられたその話。
確証はなくとも確信がアタシにはあった。

「それからかな、隣のおばさんが俺の瞳のことを言ったんだろう。噂ってのは簡単に大きくなるよな。俺達家族は村で肩身を狭くして暮らした。なんだろうな、悪いことって続くもんだよな……。裕福だった村が、崩れだしたんだ。何日も雨がなくて、日照りが続いた」

天候というのは人智を超えたものだ。
人の手でどうにかできるものではない。
畑はやせ細り、作物は実らず。
飲み水さえも、やっとの思い。
蓄えは徐々に減って行く。
何かのせいにしなければ、やってられない。
そんな想いが、村の人々の胸中を駆け巡ったのだろう。
容易に想像ができる。

「いつしか矛先は俺に向いていた。その金の瞳が災いをもたらす存在だと凶作に災害、全てを俺のせいにされて。……村にはもう、とても住めなかった。俺一人を追い出してしまえば良かったかもしれないのに、両親も兄さんも、俺を追い出すという選択はしなかった。家族でひっそりと村を出て山で暮らすようになったんだ。じいさんは移住する前、山で暮らしていたからね。その小屋がまだ残ってたんだ。不自由は無いことはないけれど、それなりに過ごすことはできたよ。そんな風にして、逃げるように。10年近く、山で暮らしてた」

タキがこちらを見て、くすりと笑った。

「……そんな、泣きそうな顔をしないで。過去の、……そう、過去の話だよ」

笑ったはずのその顔は、切なくて揺れていた。