少しばかり眠れない夜が明けた朝、部屋にはいつも通り太陽が射し込み変わらない日常を告げている。

ゆっくりと体を起こし、ぼんやりとした頭で昨晩のことを思い起こす。
タキは何にあんなに怯えたのだろうか。
直前は窓を閉めようとしていて、―――月?

いや、憶測で物を考えるのはやめよう。
タキに伝えたことが全てだ。
彼が何者であっても共に過ごした時間が短かろうと、その時間がアタシには真実。
その話題に全く触れないのも不自然だから様子だけは伺うけれど、深く追求することはやめておこう。

頭と体を目覚めさせる為、動き出す。
着替えを済ませて髪をくくる。
扉を開ければ昨晩と同じ位置にタキが眠っていた。
もしかしたら昨夜のことで出ていくかもしれないと思っていたから、そこにタキがいたことに素直に安堵した。
疲れてそのまま眠ってしまったのか、体を丸めて猫のようだ。
とはいえこのままでは風邪を引いてしまう。
流石に男の体を持ち上げることは困難なので、一度部屋に戻り、上掛けを持ってくる。
近づくと規則正しく寝息が聞こえる。
まるで子供のようだ。
上掛けを掛けても起きる気配はなく、すやすやと眠っている。
いつもならばアタシよりも早起きをして、食事の支度やらしてくれているのだが、昨夜のことがよっぽど参っているのだろう。
邪気のないその寝顔を見つめて、アタシは手を伸ばす。
存在を確かめるように、その黒い髪を、その頬をそっと撫でた。

「大丈夫だよ、タキ。……アタシはアンタのことが、好きだよ」

眠るタキは、ピクリと眉を動かしたが、それでもまだすやすやと寝息を立てていた。
タキを起こさないようにそこから離れ、店へと向かう。
背中にタキが動いた気配を、感じながら。