「見ちゃだめだ、見ないで。見ないでくれ……」
次第に小さくなっていく声が、何かに怯えているようだ。
アタシはもう一歩、タキに歩み寄りぎゅっとその体を抱きしめた。
「タキ、大丈夫だ。大丈夫だよ」
そっとその大きな背中をなでる。
大きな背中は、今はただ震えていて、まるで小さな子供のようだ。
「タキ、大丈夫だよ。こうして抱きしめていれば、タキの顔は見えないさ」
だから大丈夫だと、その震えが収まるまで抱きしめ続けた。
やがてその震えも収まってきた頃に、タキはぽつりと「カレンさん、ごめん」とこぼした。
上を向く気配のないタキを抱きしめたままアタシは呟く。
「大丈夫さ、タキ。……例えば、だ。例えばアンタが化け物だったとしても、アタシはタキが好きだよ。一緒にいた時間に見たものは、タキの心だとアタシは思ってる。何に怯えているのかは知らないけどね。何を見ても、一緒にいた時間は変わらないんだよ」
トントン、と優しく背中を叩いて、体を離した。
「さぁ、もう今日は寝ようじゃないか。風呂は明日入ればいいさ。今日はこっちを使うと良い。アタシはもう部屋に戻って寝るよ、お休み」
未だうつむくタキに、そう言ってアタシは窓を閉めてそこから離れた。
「カレンさん、ごめん。……ありがとう」
部屋へと続く扉を閉じる直前、小さな小さな声が耳に届いた。
声に誘われるように視線をやるとタキはまだ項垂れていて何故だが涙が出そうになった。
それは零れ落ちることはなかったけれど、鼻の奥をツンとさせてアタシの胸を蝕む。
分かるはずもないタキの痛みを写したみたいに。
アタシの痛みもいっそタキに写れば良いのにと思うほどに。
貴方を想うことで生まれた痛みを少しばかり愛おしく思う。
矛盾しかない自分の気持ちを持て余しながら静かに眠りについた。