部屋に引っ込み、踊り用の衣装を身に着ける。
胸元は大胆に開いて、腰からはフリルが華を添える。
スリットの入った裾が艶かしさを強調するだろう。
それに併せて化粧を直す。
鏡の中で向かい合う自分の肌に白粉をはたき、赤いルージュを唇に乗せる。
簡素に結いあげていただけの髪をおろし、改めてセットする。
今日は髪が揺らめかないよう、編み込みアップにしてまとめる。
衣装の話に負けないアタシを作り出す。
最後の仕上げは笑顔だ。
にこやかに笑うその奥に、ひっそりと艶を忍ばせたその瞬間、アタシはこの店の踊り子になるのだ。
店に戻り、タキと示し合わせてステージに上がる。
唇に指を添え「シィ……」と、静寂を促すと、賑やかだった客たちも期待と興奮の混じった眼差しながら静かになった。
それに満足して、ニッコリと頷くとアタシはその指を頭上に掲げてパチンッと指を鳴らした。
足はステップを踏み、指先の一つ一つを使い、アタシは踊る。
タキの演奏に乗り、アタシのすべてを使って客を虜にする。
客たちの本能を揺さぶるような、そんな踊りを、アタシは舞うのだ。
ギィ、ギィ……
古びた看板が錆びた音を上げる。
時刻は間もなく23時を告げようとしている。
街の住人達は、おそらく皆夢の中にいる者も多いだろう。
1時間前までポツポツとついてた店の灯りも無く、ここいらで灯りがともっているのはこの店だけだろう。
アタシも本来ならばもう店の鍵は閉めて自室へと向かう時間だというのに、片付けも終えてさて戻ろうというときに外の札を変え忘れていたのを思い出したのだ。
まだ深夜を回ったわけでもなく、札を変えるだけだからと今、ほんの一瞬外に出たのだ。
少しだけ月を見上げる。
月はふくよかに美しい満月。
「良い月だ」
静かで厳かな光を放つ。
暗がりの街は月明かりに照らされて、暗いけれどもどこか明るいような、そんな気がする。
「それにしても、今日はなんだか寒いね……」
ぞわり、と背筋に冷気が伝い、誰に言うでもなくそうぽつりと独りごちた。