立ち止まり、ゆっくりとタキを見ると、皆にしゃべりかけられることにやはり戸惑いを見せつつも、笑顔を零している。
その笑顔は決して作られた笑顔ではない。
手には余るほどの食べ物を持って、この街の住人のよう。
いや、タキはもう“住人のよう”ではなく、この街の住人だ。
少なくとも、アタシはそう思っている。
照れた笑いを浮かべるその顔に浮かんでいた涙は、今はもうすっかり乾いたようだ。
タキが追いつくのを待って、二人で並んで街を歩く。

キリッと冷えた空気は澄んで、満点の星空を美しくする。
灯りがなければもっと美しく見えるのだろうが、今日は街灯に加えて家々から溢れる灯りが少々星を隠している。
けれど月明かりの弱いか細い月なので、紺碧の夜空に浮かぶ星の輝きを楽しむには十分だろう。

「カレン、タキ、お疲れさま」
「ありがとう。おじさん、これを貰っていくよ」
「おじさんの料理は今日だけの特別だものね」
「へへっ。いつも作ってくれる母ちゃんに感謝する日でもあるからな、今日は」
「毎日やってくれるとありがたいんだけどね」
「まぁまぁ。家の仕事は料理だけじゃないから、他のところで採算が取れてるんでしょう?仲がいいことじゃないか」
「まぁね」

仲睦まじい夫婦に礼を伝え、その先々でも声に応えたり料理を貰っては礼を言いながら、手に沢山の頂戴した料理を携え、帰路につく。
間もなくこの宴も終焉となるだろう。
あとは片付け、各々の家に帰り楽しく夜をすごすのだ。
アタシ達は舞台の片付けという大仕事があるけれど、それはこの時分の暗がりでは手元も危険なので、毎年翌日に行われる。
なので今夜のうちの片付けというのがアタシ達には無いので、店で改めて二人の時間を過ごすことにした。

「皆、パワフルだね」
「だろう?今年もきっと良い一年になるさ」

穏やかな笑顔が戻ったタキの、先程のあの涙は心の大事な部分に仕舞って。
今は、街の皆と一緒に笑顔を浮かべていられた、一年の始まりの夜を楽しんだ。