手にした薔薇に、ふぅっと息を吹きかけ“命の喜び”を表す薔薇を天に捧げる。
そして体をぐんと沈ませ、大地に“感謝”のキス。
そうして、海に向かって差し出す重なった両手は“希望”。
アタシの足が止まり、シャン、と鈴の音が鳴りやむ。
静かに、鈴の音を鳴らさないようにそっと机に近づき、手にしていた薔薇を活けて両手を組んで膝をつく。
同時に皆も膝をつき両手を組み、共に祈りを捧げる。
“天と地と海のご加護のあらんことを”
静寂の後、アタシが立ち上がると、皆が、わぁ!と声をあげ拍手をくれた。
にこやかに笑い、それに応えてお辞儀をして、アタシは一度店まで戻った。
「カレンさん、綺麗だったよ」
店に戻ると、後ろにいたタキが口を開く。
どうやらそれは心からの言葉らしく、いつもよりも少しだけ緊張感のある声だった。
それが何だかくすぐったくて、ごまかすようにそのまま前を向いて「ありがとう」と、笑った。
ふ、と一息ついてタキと向き合う。
「タキの演奏も。素晴らしかったよ、ありがとう」
アタシの言葉にタキは、首を振る。
その瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
先程の言葉の緊張は、この涙を堪えるためのものだったのだと悟る。
「……タキ?どうしたんだい?」
驚いて、慌てて掴んだタキの手は、こちらもまた微かに震えているようだった。
それを鎮めるように、両手で包み込むとタキがギュッと手を握り返した。
「カレンさんがあまりにも……綺麗で。俺の罪を赦してくれる、女神のようで……」
タキの言葉に、アタシはつかんでいた手をぎゅっと強く握り直した。
それ以降の言葉はなく、静かに涙を流すタキは、なんだか子供のように見えた。
堪らず、静かに瞳から雫を零すこの優しい青年をアタシは胸に抱きかかえると、その心と過去に、ほんの少しだけ触れた気がした。
賑わいを見せる通りとは裏腹に、静かな時間が二人を繋いだ。
静かな時間を打ち破ったのはアタシの腹の虫というお約束だったが、場を和ませるには十分だ。
アタシ達は少しの照れを滲ませながら互いに顔を見合わせ、まだ賑わいの続いている街へと繰り出すことにした。
「カレン!今年も素晴らしい踊りだったよ」
「タキのギターも素晴らしかった」
「カレンねぇちゃん。今度あたしにも踊りを教えてね」
外に出ると、皆が声をかけてくる。
その声に応えつつ、手渡される料理をありがたく頂戴してお腹を満たす。
見渡す限りの人々は皆一様に笑顔で、年の始まりを喜んでいる。
「タキ!あんたの演奏良かったよ。またお店に聴きに行くからね。これ、持っていきな!」
威勢よく声を掛けられ、押し付けられるようにクレープを手渡されたのだろう本人は、おそらく少々怯んでいるのだろうが、先々で聞く言葉にタキの名前が混ざっていることがアタシは嬉しくてくすぐったかった。