漆黒の闇が広がる夜。
時刻としてはまだ6時を回ったところだが、この季節の日の入りは早く、すでにあたりは暗闇にに満ちている。
頭上の月はその存在を闇に紛らわすようにほっそりとしていて、薄く地上をみつめている。
街灯には火が灯り、暗い夜を照らす道標となる。

街の路地には、たった一日、この日だけ長く長くたくさんの机が並べられる。
市場のように幌は無いけれど、今日この日の為だけの準備だ。
まだ陽の暮れる前、夕暮れ時に準備に追われている様子を見た。
それぞれの家庭の机を持ち寄り、綺麗にテーブルセッティングをしてと忙しなく男も女も、大人も子供も関係なく働いていた。
アタシは生憎、料理を出す側ではなく舞手としての役割があるから整えるのはテーブルではなく舞台だ。
タキが腕を振るおうとしていたけれど、急遽お願いしたギター演奏の練習に追われた為、毎年の如く“白薔薇”からは机は出ていない。
例年のように、みんなのご相伴に預かるとしよう。

店の窓から覗けば、先刻までは途中だった準備はすでに整っており、いくつかのランプが机に並べられたお供物、そして料理たちを照らしている。
今か今かと待ちわびて、そわそわとしている子供たち。
ご近所同士で和やかに過ごす大人たち。
わいわいと賑わう夜は、嬉しいものだ。

「もうすぐ7時になるよ!」

どこからか声が聞こえて、皆がその時を待つ。
やがてポーンと鐘が鳴り響き、それを合図に皆一様に祈りを捧げた。
アタシも例外なく、静かに両手を組み祈りを捧げる。

“天と地と海のご加護のあらんことを”

祈りの言葉を締めくくると、アタシは外に出た。

店の前から広場までの道を舞いながら進む。
この日の為だけの白いフリルの衣装を纏い、靡かせ、この日の為だけの舞を捧げる。
足元の鈴、手元の腕輪が舞うたびに軽やかな音を奏でている。
やがて広場に辿り着くと、ギターを構えたタキが待っていた。
数週間前にはクリスマスマーケットが開かれていた広場には、太陽と月を模したモニュメントが置かれ、少しせり上がった舞台には波を模した模様がある。
太陽と月のモニュメントの下には机と、その上には花瓶が一つ。
タキの手には一本の赤い薔薇。
アタシはそれを受け取ると、舞台の中央へと足を進めた。

“年始の踊り”は代々、アタシの家の女がこの踊り子の役を担ってきた。
婆様も、母様も、例外なく踊ってきた。
アタシがこの踊りを舞うのは、今年でもう何度目になるだろう。
毎年皆の歌に乗せて舞うけれど、今年はもう一つ重なる音がある。

―――ポロン……

溢れる優しいギターの演奏に乗せて皆が歌い、そしてアタシが踊る。
心地が良い。
まるで心さえも舞うようで、足取りが軽い。
ふわりふわりと髪が舞う。
ばさり、蹴り上げるようにスカートのすそを躍らせる。
鈴がなり、皆の顔にも笑顔が浮かぶ。