自室を出て店に向かうと、すでに物音がしている。
言わずもがな、タキだろう。

「明けましておめでとう」

今日も変わらず朝食の準備をしているタキがアタシに気づいて声をかけてくる。
朝食の準備をそのまま任せて、カウンターに腰を下ろした。

「おめでとう。……今日くらいのんびりしてもバチは当たらないよ。本当に朝早くからよく働くね」

くすくすと笑ってそいう言うと「習慣だから」と、苦笑した。

「今日はいい天気だねぇ」
「一年の始まりの日が良い天気だと気分がいいね」
「あぁ。この分だと、夜まで綺麗に晴れるだろう」
「夜に何か?」
「そうか。タキはこの辺りで年を越すのが初めてだったね」

タキがここにいる風景はもうずいぶんと馴染んでいて、すっかりと頭の中から抜け落ちていた。
朝食の準備が整って、タキがこちらへまわってくる。
今日はこのままカウンターで食べることになるようだ。
隣に腰掛けたタキがこちらを伺う。

「ここいらではね、毎年、年の初めの晴れた夜に天と地と海にお供物を上げるんだよ」

脳裏にその様子を思い浮かべ、笑みが溢れる。
アタシがまだ子供だったころよりもずっと前、爺様や婆様よりもずっと前から続いているこの辺りの習わし。

「この街の恵みは、全て天と地と海によるものだから。今年の豊穣と、無事を祈るんだ。そしてその祈りを具現化する舞をアタシが舞うのさ」
「なるほど」
「とはいえ、まぁなんだかんだでその後は宴会のようになるんだがね」
「それなら腕を振るわないとな」

朝食を食べながら話をすすめると、タキは笑ってそう言った。
今年はあの景色の中に、タキがいるのか。
どうせならタキにギターを奏でてもらいたいものだ。

「そうだよ、タキ。ギターを演奏しておくれ」
「それは無茶だよ、カレンさん」

思いついたことを言えば、驚きで声をつまらせるようにタキが答えた。

「上手い演奏なんて要らないよ。そこに感謝の気持ちがあれば良いんだ。タキなら適任だ。大丈夫さ、きっと!」