帰宅して、さっそく取り掛かった屋根の除雪も一段落した、少しの空き時間。
今はジェイムズとマリィもやってきて調理の下ごしらえや店内の掃除をしている。

「今日は温かいね」

熱いコーヒーを飲みながらタキがつぶやいた。

「あぁ、最近は雪が降らないおかげでお天道さんが随分と頑張っているようだ。日差しが温かいね。けれど、そうやすやすと春はやって来ないよ」
「もうしばらくは、真っ白い雪と付き合わなきゃいけないか」
「ははっ、そうだね。レイが言っていたけれど明日からまた降るだろうね。あと1カ月は付き合ってもらわなきゃいけないだろうね」
「そうか。こればっかりは人の手には負えないね。……さぁ、練習しようか」

タキは立ち上がり、ぐん、と背伸びをすると、ステージ脇に置いてあったギターをとった。
ナイロンの弦の優しく綺麗な音が店内に響く。
器用に動く指が、アルペジオを響かせる。
そして、その音に合わせてタキが歌う。
その歌声は実に不思議に響いて、柔らかく、強く、しなやかに伸びる。
タキの歌うその歌は、どこか異国の音楽で、使う言葉もこの国のものとは違っていた。
けれどそれは切なくかすれ、愛しく震え、想いが歌になるように胸に迫る。
タキ本人と同じく、実に不思議な魅力を持っている。
それを受けてアタシはリズムを刻み足を踏む。
タキの持つレパートリーは数あれど、アタシが一番好きな歌は直感的にこれだと思った。
窓からさす光が温かい、冬の温かな日だった。


翌日の朝、窓を揺らす風に乗って雪が叩きつけられている。
窓の外は景色を見るのも困難なほど吹雪いている。
雪の降りやすい街ではあるが、こんなに雪が降るのは久しぶりのことではないだろうか。
積雪が、ここ何年か見ない程の高さになっていた。
アタシ一人だったら雪かきが追いつかなかっただろう。
店のカウンターへと顔を出すとそこにはタキがいてちょうど朝食が出来上がる頃だった。

「おはよう。レイが言った通りだ。よく降るものだね」
「おはよう。本当に。アンタがいてくれて良かったよ、タキ」
「どういたしまして」

顔を見合わせて、また来ぬ春を待ち侘びた。