市について、あれがない、これももうじきなくなるだろうと必要なものを確認して一通りの買い物をすませていく。
天気はいつまでも続かない。
雪がいつ降り出すかもわからない、足が悪くなる前に大きな買い物もすましてしまいたい物だけれど如何せん、食料品に関しては悪くなってしまっては元も子もない。
使用する分、保存しておける分、加工して保存食にする分と細々と確保して、またなくなる前に買いに来なければいけない。
手間ではあるものの、街の人との交流の場でもある市という場所がアタシは好きだ。
顔を上げると、港には波が打ち付け、飛沫を上げていた。
夜の闇に紛れてしまう海も、日中は光が反射してその雄大な姿を見せてくれる。
その上を海鳥が翼を広げて自由に飛び交う。
見慣れた風景に、タキがいるという違和感は、もうアタシも感じない。
いつも通りの日々がタキという新しい風を迎えて、塗り替えられていく。
タキと過ごしているこの日々が、いつも通りの日々になっていく。
あっという間に日々は流れていくのに、ゆったりと空気が流れるのは不思議な感覚だった。
買い物を済ませた帰りに、ちょうどレイに出くわした。
「よう、カレンにタキ」
「あぁ、レイ」
「良い日だね」
「おうよ。だがまた明日あたりから雪が降るだろうよ」
「おや?レイが言うなら間違いないだろうね」
「大きな買い物を済ませてしまえて良かったね」
「夜にでもまた店に顔出しに行くぜ」
「待ってるよ」
簡単な会話を会釈して終えると、再び歩き出す。
歩道の脇を見るに、この数日のお天気でやはり少しずつ雪が解けてきたようだ。
真っ白の雪から土交じりの茶色の雪も、そこかしこに見てとれた。
土も草木も、春が恋しいのは何も人間だけじゃないらしい。
けれど、こういう時こそ慣れている者でも足元が危ないというもんだ。
「春の報せにはまだ遠いが……」
「なに?」
「いや、ね。雪崩は春の報せとも言うだろう?だけどまぁ、ここのところ天気が良かったからね。気を付けるに越したことはない」
「あぁそうだね。この辺りは山からは遠いけれど、路面も凍ると危ないしね」
この数日こそ晴れてはいたものの、タキが来た日に初雪が降って以来、次第に雪は深くなっていて、今ではすっかり街は白く染まっていた。
そんな積もっていた雪がこの天気で解けだし、また寒波で凍て付く。
路面は石畳で、氷が張ると滑って危険だ。
おまけに地面に雪が積もっているということは、頭上、要するに屋根の上だって積もっているだろう。
天気だったからしばらくは良いだろうとしていたけれど、もしもまだ積もっていたとなると少し気をつけなければいけないな。
明日から降る、というレイの言葉を受けて今日の作業に雪落とし、という項目が加わった。