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 二十四時間という短くて長い時を、人の体で暖かくなっているにもかかわらず寒気を誘う廊下で過ごして数日が過ぎた。

 正確な日数を少年は知らない。廊下には窓がないため時間を示す外の明るさを目にすることが叶わない。ただ何日もここにいて、何日も食べ物を口にいれていなくて、何日も身に着けたまま洗濯されていないズボンのポケットに入ったままになっている千円札で、直ぐにでも食べ物を調達しなければならないことだけは判っていた。

 頭はそう理解しているのに身体は言うことを聞かず、大きく寝返りを打つことすら出来ない。子供ながらにも自分の状態が人体の限界に近付いていると察するも、思考回路は本来感じる筈の恐怖心すらも奪っている。


 ――このまま、死ぬのだろうか。


 怖くはない。けれど、心のどこかに死にたくないという感情が微かに生きている。

 声をあげることは出来ず、そもそもあげる気がおこらず、そんな中で心だけが助けてと小さく訴える。自分の感情を他人のように思い、それに応えてやれることが出来ず、少年は情けなさと申し訳なさ、苦しみが同時に込み上がり、原因を言葉に表せられない雫を目から流した。


 人生の選択肢はやり直しが利かず一回きりだ。どこかの選択を違うものに選んでいれば、今の状況は変えられたのではないか。

 例えばそう、目に見えない選択肢にそのとき気付けていれば。


 今更気付いたところで遅く、その選択肢がどこで存在していたのかなんて知らないのだから意味も無い。生きる人間は、普通に生きていれば知ることは不可能だ。

 過去をやり直すなんてもっての他で、その重要な選択肢の時間にピッタリ戻ることは、フィクションの世界のキャラクターにしか許されない。現実でそれらを夢見たところで虚しく、馬鹿にされるだけ。