「だからさ、学校だけを学びの場に選ぶのではなく、外を選ぶという選択肢がお前の中にはあるってことを忘れるな。学校へ行きたいのなら行けばいいし、何も知らずに非難を浴びせる奴や、それを傍観しているだけの奴らに会いたくなくて、行きたくないのなら行かなければいい。お前は大人が与えた環境による被害者なだけなんだから、萎縮する必要もない。悪いのもカウンセリンを受けなきゃいけないのも攻撃をする側で、最も悪いのは……それを気付かずに放置して、被害者の方をどうにかしようとする大人達だ」
言葉には表さないが、幸哉は加害者である生徒の気持ちにも共感していた。自分は適正価格を支払うことで対価の品を受け取り、一人の人間だけは例外される。事情を知らなければ、納得が出来なければ、恨む気持ちは募るだろう。だからといって刃先を向けるのは間違っていているが……それを教えるのも親と教師の役目。
結局のところ、加害者の子供も被害者の子供も、どちらも大人の被害者だ。
「とにかく、お前にとって一番駄目なのは人と関わる機会を失う家の中に籠ること。外には学校よりも沢山の人がいる。むしろ学校よりも多い。ただ他人と関わる機会が一気に減ってしまうから、そんな短所をお前自身が自ら人と関わっていくことで補わなくてはならない。今日みたいに買い物に外へ出たり、こんな風にどこかの店に入って、店員と喋ったり……何でもいいから、自分の世界を自分だけの空間にしないようにだけ気を付けるんだ」
完全に一人で籠ったときこそ、学校側が危惧したように将来の社会で困ることになる。
一気に喋ってしまったからか、小学生には難しい言葉を並べてしまったからか、少年は聞いているのか聞いていないのか分からない表情でポカーンと口を開けていた。それでも聞きたくない内容を語っているわけではないことは伝わっているだろう。
「大丈夫。不登校をしている大人だってたくさんいる。みんな時間が経って、社会不適合者から適合者に変わるから……」
――大丈夫。行かなくていいよ。
小さな子供には、今はまだこの二つだけでいい。
学ぶことさえ止めなければ、いつかきっと理解することが出来るようになるから。
だからそれまでは、甘えられる内に甘えることを周囲の大人は許してくれることを――
望んで、いったい何人が叶えてくれるだろうか。