「見せなくていい。それは店で何かを、自分の手でレジに持って行ったときにだけ見せて渡しなさい」


 自分の目から隠し、何も見ていないから大丈夫と心の内で語るのは自分に対してではなく間違った行動をしてしまった少年に対してだ。


「ここも店……」

「え?」

「看板に書いてあった。『店』って字が二つ、並んでた」


 自分の名前は漢字で書けなくとも、漢字を一つも知らないわけではない。


「……確かに店だけどな? この店は料理の持ち帰りはやってないんだ。お前だって飲食店じゃなくて、スーパーやコンビニでご飯を買おうと思うだろ? さては今日、迷子になったな?」

「っ、なってない……」

「嘘つけ」

「つかない」


 今のは「嘘をつくな」という意味だったのだが、真逆に伝わってしまった。自然と身に着くであろう国語力も少年には備わっていない。からかいが伝わるだけマシである。


「学校は? まだ小学生じゃなかったりする? 平日の真昼間からお前みたいなのが一人で出歩いていると、不審に思った大人は気に掛けるし悪人であれば良からぬことを考える。お母さんからお金をもらっても、今後出歩くときは近所にした方が――」


 ――いい。ちょっとしたアドバイスを雑談混じりに語るだけで、決して泣かせるつもりはなかった。


「行きたくない……。給食費なんて払えないし、払えない奴は食うなって。誰かの物が無くなれば、服も買うお金もないんだからって疑われる。電話の次はチャイム、怖い……嫌だ……」


 静かにポロポロと雫を零す姿は、初対面時の焦りではなく罪悪感を大きく込み上がらせる。

 こんなとき、どうするか。