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化粧の時間も好き。
白粉をはたいて、まゆずみを引く。水で溶いた化粧粉を指先でとって、目元へ置いていく。ひとつ、ふたつ。赤に青。少しだけ金色も。
最後に、紅を引く。水はほんの少しだけで混ぜた粉は発色の良い赤色だ。それを小指の先ですくって唇をなぞる。
髪は上のあたりだけ軽くまとめて、あとは流している。花の飾りをまとめたあたりにさして、そこからリボンを垂らす。それから、衣装を着る。
薄い布を幾重にも重ねた胸元には、細やかな銀糸の刺繍。貝ビーズの飾りが垂れていて、それでおしまい。おなかには残った化粧道具で花を描いた。腰から先は、色鮮やかな巻きスカート。
アクセサリをつければ、ほら、もう。
継ぎスカートのみすぼらしいメイはどこにもいない。
「さあメイ、出番だよ!」
舞台の向こうから、ママの声がする。はい、と返事をしてあたしはゆっくり舞台にむかった。
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指を天井に向かって伸ばす。しゃん。手首につけた鈴の音。今度は足。アンクレットが音を鳴らす。体が動き出す。波を打ち、しなやかに、強く。銘々に騒ぐ酒場の男たちの喧噪の中に、ちいさくちいさく、鈴の音が割り響く。はじめは紛れてしまって、だれの耳にも届いていない。でも、何度かの鈴の音が誰かの耳に届くと、その誰かは杯を置く。少し口をつぐむ。そんなことが繰り返されるうちに、酒場は不思議な静寂さに包まれた。
響くのはかすかな鈴の音と、マスターの調理の音。
その中で、あたしは舞う。
物心ついたときには、あたしはもう一人だった。親が誰かなんてわからないし、知りたいとも思わないけどね。ただ、どうやって生きていけばいいのかは知りたかったな。そのころは本当になにもわからなくて、ただ街をうろうろしてた。残飯を漁ったり、時々間抜けな人からお金をいただいたりしていた。
ある時広場に来ていた大道芸人の女の人が踊っているのを見て、真似してみたんだ。
そしたらびっくりするくらい楽しくて、もう本当に、なんでこんな楽しいの誰も教えてくれなかったんだろうって悲しくなっちゃったくらい。
それから毎日踊ってた。一人で、路地の片隅で。
誰かに見て貰いたいとか考えたことなんてなかったけど、偶然、この店のママに拾われた。
センスあるじゃない、なんて、そんな言葉をかけられてね。
それからは、これがお仕事。そう、生きていく手段になった。ママとマスターはあたしを気に入ってくれて、踊って、お金を貰って、路地の奥に部屋まで借りて、ちゃんと生きている。
夜は、あたしが生きていく時間。
目を閉じる。体が跳ねる。とびきりしなやかに、やわらかく。
まぶたの裏に、ポウと穏やかな橙の光がともった。
おじさんが、街灯に火を入れるとき。
あたしの時間がはじまるんだ。