取材。

 雑誌ライターとしては逃げられない仕事である。

 けれども、まさか大学生のアルバイトにそれをやらせますか?

 真名は内心、悲鳴を上げて逃げたい気持ちを抑え込んでいた。

 大丈夫かという泰明の問いに愛想笑いで答えるが、その笑いも引きつる……。


 取材は相手が承諾しなければ成り立たない。

 すなわち、取材のためのアポイントを取るために相手に連絡しなければいけない。手段は電話かメールだ。

 ここで真名はふと重大なことに気づいた。

「相手の方に『月刊陰陽師』って名乗っていいんですか?」

 一般人にとって聞いたこともない雑誌であるし、そもそも部外秘みたいだし。

「そのときは某有名オカルト雑誌を詐称する」
 と泰明が涼しい顔で答えた。真名でも聞いたことがある雑誌名だった。

「詐称していいんですか!?」

 真名の声が裏返るが、泰明は前髪をクールにかき上げている。

「うちの編集長が向こうの編集長の許可取ってるから大丈夫」

「それでもバレますよね!? 詐称させていただく雑誌は本屋で売ってますから!」

「たいていは〝没になりました〟で切り抜ける」

 真名が目を白黒させていると、パソコン島で作業していた律樹が声に出して笑っていた。

「真名ちゃんのそんな顔が見られると思わなかったなあ」

「ええ、まあ……」そんなにすごい顔だっただろうか……。

「一見するとものすごい〝嘘つき〟のように見えるけど、これでいいんだ」と不思議に真剣な顔で泰明が言った。「神代だったら、悪霊やあやかし、場合によっては悪魔が本気で憑依していた記事なんて、匿名でも全国誌に残りたい?」

 そう言われて、真名ははっとなった。普通の人にとってそんな記事は周りにもどう説明していいか分からない。単純に迷惑だ。

「ちゃんと泰明や編集長がお祓いはしてあげるから、以後は基本、怪異現象は起こらなくなる。もちろん、本人の心が原因で悪霊やあやかしを呼んでいた場合はずっと呼び寄せるけど、その場合はしかるべきプロを別途紹介する」
 と律樹が補足してくれた。「月刊陰陽師」は伊達ではないらしい。

 そういうわけで、取材のアポを申し込んだ。今回はブログのメッセージ欄からである。
 メールはこれまで経験的に〝断り〟が少ない文例――しかも、泰明たちの呪も込められている――を使い回した。
 泰明に確認してもらい、送信する。

 取材に必要なものを集めていると返信があった。

 真名は返事を見たいような見たくないような複雑な気持ちで返信を開く。内容をざっと見て、真名はその場に突っ伏した。

 泰明が慌てる。「おい、大丈夫か!?」

「だ、大丈夫です……。これ――」

 起き上がった真名が画面を指さす。文面を見れば取材を受けてくれるとあった。どうやら真名は緊張のあまり、取材承諾のメールを見て気が抜けたらしかった。